これは、もうすぐブレイクするかもしれないと、周りから言われている、未知数の能力を秘めたピン芸人Yに聞いた話。
Yは昔から心霊現象、ミステリー、都市伝説といった類のものにかなり関心が深く、これまでに様々な体験をしてきたそうだが、中でも彼の記憶に強烈に残っているのが、後輩芸人数人を引き連れて行った富士の樹海探検ツアーだそうだ。
10月某日。気温7度。樹海の中は、時の流れが止まっているかのように森閑としていた。
「よし、この木にしよう。で、こっちをお前に結んで……」
「えっ、なにするんですか?」
Yは、持参してきた長めのロープを樹海の入り口にある大きな木に結び、もう一方を後輩芸人のうちの1人の体に結んだ。
「オレ調べたんだけど、樹海の中って磁場が狂うらしいんだよね。帰り道わからなくなったら困るし、お前とこの木を結んでおけば、絶対ここに戻って来れるだろ?」
Yの説得力ある一言に、後輩芸人一同は納得した。確かに富士の樹海では磁場が狂うと聞いたことがある。
しかし、これに関しては色んな説がとびかっているらしく、はっきりとした答えはまだ出ていないのだが、とにもかくにも、Yを先頭に富士の樹海探検ツアーが始まった。
「なんか気味悪いですね……。先輩、やっぱり帰りましょうよ」
樹海に1度足を踏み入れると、どこもかしこも草木が生い茂り、360度同じパノラマが広がっているため、東西南北まるで方角がわからない。その上、スラリと伸びた木々は太陽の日差しさえも遮断してしまうのだ。
一行は、薄暗がりの樹海をひたすら進んだ。
「せっかくこんな雰囲気なんだし、俺がとっておきの怖い話してやろうか?」
「Yさん、ホントにやめて下さい。ただでさえ怖いんですから」
そんな話でみんなをからかいながら歩いていた先頭のYが、ふと足を止めた。
そこには、黒のカバン、茶色の封筒、靴、空のペットボトル、その横に大量の薬が散乱しており、「これは!」と思ったYは、その瞬間、大声で叫んだ。
「お前ら、上を見ちゃダメだー!!」
その言葉に、残りのメンバーは固まった。
Yは、続けて、
「上を見たらな……木の枝にな……小鳥がとまってるぞ。アハハハハ」
「……えっ?」
まさかのYのジョークだった。
「お前ら、ビビりすぎだって。大丈夫だよ、俺らはこのロープを手繰って帰ればすむ話だろう? 違う?」
こんなやりとりがあったらしい。
それから、どの方角へどれだけの時間をかけてどのくらい歩いたのだろうか、相変わらず変化のない光景と、たまに目にするヒトがいたであろう痕跡……想像力が掻き立てられ、ただただ膨らむ恐怖心で、大木の根っこでさえ骸をイメージしてしまっていた。
その時だった。
入り口からずっと身体にロープを結んで歩いてきた後輩芸人が口を開く。
「あれっ、先輩、先輩、今ロープを……引っ張られたんですけど……」
それを聞いて、ざわつく他の後輩芸人達。
その後輩にYは言葉を返す。
「これだけ歩いてきたんだから、どこかの木の枝にでも引っかかったんだろう」
しかしいつもはおとなしく何でも言う事を聞く後輩も、この時ばかりは違った。
「木の枝とかそんな感触じゃなくて、なんというか、人間が引っ張ったような気がするんです。Yさん、一旦戻りませんか? お願いします……。お願いします」
その時の後輩の表情があまりにも真剣だったので、Yは戻ることを決めたらしい。
ロープを頼りに引き返すメンバー。
「こんな道、通りましたっけ?」
「通ったよ。ほら、あそこでさっき、俺がみんなのこと驚かしたろ?」
「あっ、ホントですね。あれっ? でも、確かこの辺に黒いカバンと茶色の封筒ありませんでした?」
「えっ? そんなのあったっけ? 覚えてないなー」
Yはこの時、なんだかスタート地点と遠ざかって歩いているような気がしたそうだが、それもそのはず。何度も言うように、ここは禁断の森、樹海なのだ。
Yたちはロープだけを頼りにひたすら歩き、しばらくすると、ようやく、最初にロープを結んだ木が現れた。
「みんな、無事着いたぞ」
「いやー、よかったです。ホントによかったです!」
ロープの結ばれている木を目掛け、みんなは走りだした。しかし……その木の前に着いた瞬間、みんなは声を失い、腰を抜かした。
なんと、木に結んでいたロープを利用してサラリーマン風の男が首を吊って死んでおり、その足元には、黒いカバンと茶色の封筒が落ちていたのだ。
あの時、後輩が引っ張られたような気がしたというのは、ひょっとして……。
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Yは昔から心霊現象、ミステリー、都市伝説といった類のものにかなり関心が深く、これまでに様々な体験をしてきたそうだが、中でも彼の記憶に強烈に残っているのが、後輩芸人数人を引き連れて行った富士の樹海探検ツアーだそうだ。
10月某日。気温7度。樹海の中は、時の流れが止まっているかのように森閑としていた。
「よし、この木にしよう。で、こっちをお前に結んで……」
「えっ、なにするんですか?」
Yは、持参してきた長めのロープを樹海の入り口にある大きな木に結び、もう一方を後輩芸人のうちの1人の体に結んだ。
「オレ調べたんだけど、樹海の中って磁場が狂うらしいんだよね。帰り道わからなくなったら困るし、お前とこの木を結んでおけば、絶対ここに戻って来れるだろ?」
Yの説得力ある一言に、後輩芸人一同は納得した。確かに富士の樹海では磁場が狂うと聞いたことがある。
しかし、これに関しては色んな説がとびかっているらしく、はっきりとした答えはまだ出ていないのだが、とにもかくにも、Yを先頭に富士の樹海探検ツアーが始まった。
「なんか気味悪いですね……。先輩、やっぱり帰りましょうよ」
樹海に1度足を踏み入れると、どこもかしこも草木が生い茂り、360度同じパノラマが広がっているため、東西南北まるで方角がわからない。その上、スラリと伸びた木々は太陽の日差しさえも遮断してしまうのだ。
一行は、薄暗がりの樹海をひたすら進んだ。
「せっかくこんな雰囲気なんだし、俺がとっておきの怖い話してやろうか?」
「Yさん、ホントにやめて下さい。ただでさえ怖いんですから」
そんな話でみんなをからかいながら歩いていた先頭のYが、ふと足を止めた。
そこには、黒のカバン、茶色の封筒、靴、空のペットボトル、その横に大量の薬が散乱しており、「これは!」と思ったYは、その瞬間、大声で叫んだ。
「お前ら、上を見ちゃダメだー!!」
その言葉に、残りのメンバーは固まった。
Yは、続けて、
「上を見たらな……木の枝にな……小鳥がとまってるぞ。アハハハハ」
「……えっ?」
まさかのYのジョークだった。
「お前ら、ビビりすぎだって。大丈夫だよ、俺らはこのロープを手繰って帰ればすむ話だろう? 違う?」
こんなやりとりがあったらしい。
それから、どの方角へどれだけの時間をかけてどのくらい歩いたのだろうか、相変わらず変化のない光景と、たまに目にするヒトがいたであろう痕跡……想像力が掻き立てられ、ただただ膨らむ恐怖心で、大木の根っこでさえ骸をイメージしてしまっていた。
その時だった。
入り口からずっと身体にロープを結んで歩いてきた後輩芸人が口を開く。
「あれっ、先輩、先輩、今ロープを……引っ張られたんですけど……」
それを聞いて、ざわつく他の後輩芸人達。
その後輩にYは言葉を返す。
「これだけ歩いてきたんだから、どこかの木の枝にでも引っかかったんだろう」
しかしいつもはおとなしく何でも言う事を聞く後輩も、この時ばかりは違った。
「木の枝とかそんな感触じゃなくて、なんというか、人間が引っ張ったような気がするんです。Yさん、一旦戻りませんか? お願いします……。お願いします」
その時の後輩の表情があまりにも真剣だったので、Yは戻ることを決めたらしい。
ロープを頼りに引き返すメンバー。
「こんな道、通りましたっけ?」
「通ったよ。ほら、あそこでさっき、俺がみんなのこと驚かしたろ?」
「あっ、ホントですね。あれっ? でも、確かこの辺に黒いカバンと茶色の封筒ありませんでした?」
「えっ? そんなのあったっけ? 覚えてないなー」
Yはこの時、なんだかスタート地点と遠ざかって歩いているような気がしたそうだが、それもそのはず。何度も言うように、ここは禁断の森、樹海なのだ。
Yたちはロープだけを頼りにひたすら歩き、しばらくすると、ようやく、最初にロープを結んだ木が現れた。
「みんな、無事着いたぞ」
「いやー、よかったです。ホントによかったです!」
ロープの結ばれている木を目掛け、みんなは走りだした。しかし……その木の前に着いた瞬間、みんなは声を失い、腰を抜かした。
なんと、木に結んでいたロープを利用してサラリーマン風の男が首を吊って死んでおり、その足元には、黒いカバンと茶色の封筒が落ちていたのだ。
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