近頃の若いモンは……なんて言いながら、僕も30歳直前のまだまだ若造なんですが、それにしても、最近の若いADは使えないヤツが多いと、日々嘆いているディレクターです。
ゆとり教育で育ってきたせいか、超マイペースだし、コミュニケーションツールがほぼメールであるアイツらは、急を要する連絡ごとや人への謝罪も全てメールで済ませようとしたりで「そういう場合は、まず電話だろ!」と何度怒ったことか、わかりません。
しかしながら、このところずっとテレビ業界はAD不足で、彼らに辞められては非常に困るということから、僕たちディレクターには「ADを怒るな!」という、なんとも理不尽なお達しが出ているのです。
僕の下で働いているADの田中(仮名)はとにかく凡ミスが多く、取材先への連絡をうっかり入れ忘れてロケがスムーズに行かなかったり、人名のテロップを入れ間違えたり……。
「お前、しっかりしろよ!」と怒鳴りながら蹴り上げたい気持ちを日々、抑えているのですが、ある時、ヤツの行動に、僕ではなくプロデューサーがキレてしまいました。
それは、田中がおそらくプライベートで飲み食いしたのであろう飲食代の領収書を経理に出して、金をもらおうとしたことが原因でしたが、この時ばかりは大目玉を食らっていました。
普段「ADを怒るな!」と僕たちに言い聞かせているプロデューサーですが、金のことに関してはシビアなのです。
「お前、なに考えてんだ! この身のほど知らずが!!」
そう大声で叫んだ後、クドクドと説教をし始め、さらに、ベタではありますが、罰として頭を丸めるよう、田中に命じました。
翌日、丸坊主になって職場に現れた田中を見て、あることに気づいたのです。
以前は、後ろの髪が肩に少しかかるくらいの長さだったため、わからなかったのですが、田中の右耳の後ろには、結構目立つ大きめのほくろがありました。
それを見つけた僕が、
「あれ? お前、耳の後ろにほくろ、あったんだ」
と言うと、田中はそれを手で隠しながら答えました。
「そうなんす。これ……見られるの、ヤなんすよね。だから、髪伸ばしたんすけど」
まあ、確かに格好いいものではありませんが、自分が悪いのだから、それぐらいの辱めは受けて当然……と、僕は思ったのですが、それからヤツの様子が少し変わってきました。
つまらないミスを繰り返すのは相変わらずなんですが、僕や他のディレクターが注意すると、逆ギレするようになり、AD同士の間でも、ちょっと気に食わないことがあったりすると、暴れて物を投げたりするようになったりと、なんだかだんだん凶暴化してきたんです。
「最近のアイツ、なんか怖くね?」
「ああ、怖いよな。前は、あんなじゃなかったのに……」
方々で、田中が変わったと噂されるようになり、それと同時に囁かれるようになったのは、ヤツのほくろのこと。
「なんかさぁ、アイツのほくろ、前よりデカくなってねえか?」
言われて見てみると、確かに、以前と比べて少し大きくなった、というか膨らんだ気がしますが、それと、田中の態度が急変したこととは全く関係のないこと……最初はそう思っていました。
それから1ヵ月ほど経った頃、久々にみんなが休みを取れる日曜日があったので、ADとディレクターほぼ全員が集まってフットサルをすることになりました。
この日は田中も参加しており、僕と同じチームだったのですが、内心「試合が思い通りにいかなくて、キレだしたら嫌だな」と思っていました。
そして、試合が始まると、早くも敵のチームにリードされ、僕らのチームはパスもうまく通らず、シュートも外しっぱなし。
その様子にイライラしだした田中は、コート内で地団駄を踏むようになり、これはマズいなと思った瞬間……相手方が蹴ったボールが田中の右後頭部を直撃しました。
と、同時に、その場にへたり込んだ田中。そして、地面にはポタポタと血がしたたり落ちてきました。
「大丈夫か? 田中!」
僕たちは慌ててヤツの元に駆け寄り、声をかけると
「はい……大丈夫っす。一応……」
そう答えはしましたが、後頭部から出血しているようで、ずっと手で押さえていたため、僕は言いました。
「ちょっと、お前、手ぇ、どけてみ」
田中は言われた通り、手をゆっくりと離し、僕たちが患部を確かめると、
「うわっ!」
その場にいた全員が声を上げました。
田中の患部は、まさに、あのほくろの部分で、そこにボールが命中したため、ほくろが潰れて、赤黒い血がドクドクと流れてきていたのです。
その後、田中のほくろは随分スッキリし、そこに溜まっていた悪いものが全て流れ出たのか?
不思議なことに、それ以来、田中がキレたり暴れたりすることはなくなりました。
ただ、一旦ほくろは潰れましたが、またいつあのほくろが大きくなって、田中がキレたり暴れたりするのか……。それを想像しながら気を遣って田中に接しているので、今度はこっちのストレスが溜まってきそうです。
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ゆとり教育で育ってきたせいか、超マイペースだし、コミュニケーションツールがほぼメールであるアイツらは、急を要する連絡ごとや人への謝罪も全てメールで済ませようとしたりで「そういう場合は、まず電話だろ!」と何度怒ったことか、わかりません。
しかしながら、このところずっとテレビ業界はAD不足で、彼らに辞められては非常に困るということから、僕たちディレクターには「ADを怒るな!」という、なんとも理不尽なお達しが出ているのです。
僕の下で働いているADの田中(仮名)はとにかく凡ミスが多く、取材先への連絡をうっかり入れ忘れてロケがスムーズに行かなかったり、人名のテロップを入れ間違えたり……。
「お前、しっかりしろよ!」と怒鳴りながら蹴り上げたい気持ちを日々、抑えているのですが、ある時、ヤツの行動に、僕ではなくプロデューサーがキレてしまいました。
それは、田中がおそらくプライベートで飲み食いしたのであろう飲食代の領収書を経理に出して、金をもらおうとしたことが原因でしたが、この時ばかりは大目玉を食らっていました。
普段「ADを怒るな!」と僕たちに言い聞かせているプロデューサーですが、金のことに関してはシビアなのです。
「お前、なに考えてんだ! この身のほど知らずが!!」
そう大声で叫んだ後、クドクドと説教をし始め、さらに、ベタではありますが、罰として頭を丸めるよう、田中に命じました。
翌日、丸坊主になって職場に現れた田中を見て、あることに気づいたのです。
以前は、後ろの髪が肩に少しかかるくらいの長さだったため、わからなかったのですが、田中の右耳の後ろには、結構目立つ大きめのほくろがありました。
それを見つけた僕が、
「あれ? お前、耳の後ろにほくろ、あったんだ」
と言うと、田中はそれを手で隠しながら答えました。
「そうなんす。これ……見られるの、ヤなんすよね。だから、髪伸ばしたんすけど」
まあ、確かに格好いいものではありませんが、自分が悪いのだから、それぐらいの辱めは受けて当然……と、僕は思ったのですが、それからヤツの様子が少し変わってきました。
つまらないミスを繰り返すのは相変わらずなんですが、僕や他のディレクターが注意すると、逆ギレするようになり、AD同士の間でも、ちょっと気に食わないことがあったりすると、暴れて物を投げたりするようになったりと、なんだかだんだん凶暴化してきたんです。
「最近のアイツ、なんか怖くね?」
「ああ、怖いよな。前は、あんなじゃなかったのに……」
方々で、田中が変わったと噂されるようになり、それと同時に囁かれるようになったのは、ヤツのほくろのこと。
「なんかさぁ、アイツのほくろ、前よりデカくなってねえか?」
言われて見てみると、確かに、以前と比べて少し大きくなった、というか膨らんだ気がしますが、それと、田中の態度が急変したこととは全く関係のないこと……最初はそう思っていました。
それから1ヵ月ほど経った頃、久々にみんなが休みを取れる日曜日があったので、ADとディレクターほぼ全員が集まってフットサルをすることになりました。
この日は田中も参加しており、僕と同じチームだったのですが、内心「試合が思い通りにいかなくて、キレだしたら嫌だな」と思っていました。
そして、試合が始まると、早くも敵のチームにリードされ、僕らのチームはパスもうまく通らず、シュートも外しっぱなし。
その様子にイライラしだした田中は、コート内で地団駄を踏むようになり、これはマズいなと思った瞬間……相手方が蹴ったボールが田中の右後頭部を直撃しました。
と、同時に、その場にへたり込んだ田中。そして、地面にはポタポタと血がしたたり落ちてきました。
「大丈夫か? 田中!」
僕たちは慌ててヤツの元に駆け寄り、声をかけると
「はい……大丈夫っす。一応……」
そう答えはしましたが、後頭部から出血しているようで、ずっと手で押さえていたため、僕は言いました。
「ちょっと、お前、手ぇ、どけてみ」
田中は言われた通り、手をゆっくりと離し、僕たちが患部を確かめると、
「うわっ!」
その場にいた全員が声を上げました。
田中の患部は、まさに、あのほくろの部分で、そこにボールが命中したため、ほくろが潰れて、赤黒い血がドクドクと流れてきていたのです。
その後、田中のほくろは随分スッキリし、そこに溜まっていた悪いものが全て流れ出たのか?
不思議なことに、それ以来、田中がキレたり暴れたりすることはなくなりました。
ただ、一旦ほくろは潰れましたが、またいつあのほくろが大きくなって、田中がキレたり暴れたりするのか……。それを想像しながら気を遣って田中に接しているので、今度はこっちのストレスが溜まってきそうです。
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