芸人Nの姉はちょっとした特殊体質を持ち合わせています。体質という表現が正しいのかわからないけど、それはある種の運命のようなもので、とにかく摩訶不思議なのです。
それはNが小学生のときに起きました。学校から帰り、ランドセルを置いて、Nは台所で洗い物をはじめました。
というのも、彼の両親は共働きなので家事の手伝いはいつも彼と姉が交互にこなしていたそうです。
そこへ
「ただいまー」と姉が帰ってきました。
「おかえりー」と彼が応えます。
「お母さんまだ?」
「まだ」
姉は、シンクの前に立ち洗い物をするNの後ろを
「あーお腹すいたー」と通りすぎていきました。
ランドセルにつけたキーホルダーがからからと音を立てました。やがて洗面所の方からジャーという水を流す音が聞こえてきました。どうやら姉は手を洗っているようでした。
「あ、姉ちゃん。今日は俺がゲームやっていい?」とNが言いました。
「レベル上げしたいんだけど」
しかし返事はありません。Nは、姉は今手を洗っていて水の音がうるさいからそれでこっちの声が聞こえないのかな?と思いました。
しかし違いました。
次の瞬間です。
「ただいまー」と玄関から姉の声がしました。
驚いたNは手をびしょびしょに濡らしたまま後ろを振り返りました。そこには「なに?」と不思議そうに眉をひょいとあげる姉の姿。
「お母さんまだ?」とランドセルのキーホルダーをからから鳴らして「あーお腹空いたー」と洗面所に入っていきました。
やがてジャーという水の音……呆気にとられたNはしばらくその場に立ち尽くしてしまいました。
それからというもの姉のブンシンはたびたび姿を現しました。それは必ず姉本人のおよそ十秒後の未来を演じ、彼女自身もそのあとを忠実に再現する、といった感じでした。
Nだけでなく、父、母、祖母、すべての家族が目にしました。つまり、Nが他人のブンシンを見られるわけではなく、姉の方に自分のブンシンを生み出す能力があるということになります。
そんな力があったところでなんの役にも立たないし、かといって身の毛がよだつほど怖いわけでもないですが、なんというかまぁ摩訶不思議な話なのです。
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それはNが小学生のときに起きました。学校から帰り、ランドセルを置いて、Nは台所で洗い物をはじめました。
というのも、彼の両親は共働きなので家事の手伝いはいつも彼と姉が交互にこなしていたそうです。
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「お母さんまだ?」
「まだ」
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「あーお腹すいたー」と通りすぎていきました。
ランドセルにつけたキーホルダーがからからと音を立てました。やがて洗面所の方からジャーという水を流す音が聞こえてきました。どうやら姉は手を洗っているようでした。
「あ、姉ちゃん。今日は俺がゲームやっていい?」とNが言いました。
「レベル上げしたいんだけど」
しかし返事はありません。Nは、姉は今手を洗っていて水の音がうるさいからそれでこっちの声が聞こえないのかな?と思いました。
しかし違いました。
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「ただいまー」と玄関から姉の声がしました。
驚いたNは手をびしょびしょに濡らしたまま後ろを振り返りました。そこには「なに?」と不思議そうに眉をひょいとあげる姉の姿。
「お母さんまだ?」とランドセルのキーホルダーをからから鳴らして「あーお腹空いたー」と洗面所に入っていきました。
やがてジャーという水の音……呆気にとられたNはしばらくその場に立ち尽くしてしまいました。
それからというもの姉のブンシンはたびたび姿を現しました。それは必ず姉本人のおよそ十秒後の未来を演じ、彼女自身もそのあとを忠実に再現する、といった感じでした。
Nだけでなく、父、母、祖母、すべての家族が目にしました。つまり、Nが他人のブンシンを見られるわけではなく、姉の方に自分のブンシンを生み出す能力があるということになります。
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