今でも美容院に行くと、寒気と吐き気が私を襲う。女の私にとって、最悪のトラウマだ。
あれは10年前——。
放送作家見習いだった私は都内の映画館でアルバイトをしていた。
メジャーな映画を上映する大きな映画館とは違って、マイナーでいわゆる“単館映画”ばかりを上映する小さな映画館だった。
“放送作家には自分の武器がいる”
例えば「スポーツに詳しい」、「グルメに詳しい」、「音楽に詳しい」など、何かひとつ秀でた武器があるとその分野の番組に呼ばれたりするものだ。
先輩作家からそう教えられた私は、昔から好きだった「映画」を自分の武器にしようとした。
それも、みんなが見ているメジャー映画じゃなくマイナーな単館映画に詳しくなれば、きっと重宝がられると思ったからだ。
バイトを始めて半年、仕事にも慣れてきた私はレイトショーの受付を一人で任されていた。
上映中、受付で眠い目をこすりながらウトウトしていた私に一人の女性が話しかけてきた。
「女子トイレの用具入れから、変なうめき声が聞こえるんですけど」
「えっ、ちょっと見てきます」
若干の恐怖はあったが、<まさか用具入れで大便してるとか? だったらネタになるかも>と、放送作家ならではの考えを巡らせながら私はトイレへと向かった。
「うぅ……うぅ……」
用具入れの前で耳をすませると女のうめき声が確かに聞こえたので、私はドアをノックして呼びかけた。
「すいません、大丈夫ですか? 開けてもいいですか?」
返事はなかった。もうこれは開けるしかない、と意を決してドアを開いた。
「え……?」
私は自分の目を疑った。確かに声が聞こえたドアの向こうに、誰もいなかったのだ。そして床一面におびただしい数の髪の毛が散らばっていた。
それもおそらく腰まであるであろう長い毛ばかりが。レイトショーが始まる前にトイレ清掃をしたばっかりだし、来たお客さんの中にこんなに長髪の人はいない。
映画館の入り口も一つだ。私は全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。そして次の日もまったく同じ事が起こった。さらにその三日後にも。
さすがに耐えられなくなった私は、館長に話した。すると館長は全てを話してくれた。
「実はな、お前がここでバイトを始める何年か前に、その用具入れで自殺した女がいたんだ……。
長い髪の女が自分の髪の毛をハサミで切り、それをロープ代わりに首を吊ったんだよ。
俺が第一発見者だったんだけど、本当に悲惨な光景だった。ハサミで一気にザクザク切ったんだろうな……頭は坊主で傷だらけ、スイカみたいな血の縞模様がついてる女が、真っ黒な髪の毛をマフラーみたいにして首を吊ってたんだ。」
詳しく聞けば、毎年その自殺女性の命日前後になると用具入れで心霊現象が起きるのだという。
真相を知り怖くなった私はバイトを辞めた。そして今でも美容室で床に散らばる髪の毛を見ると、寒気と吐き気が私を襲う。
「うぅ……」とうめく私に
「大丈夫ですか?」と美容師。
まったく嫌なトラウマだ。
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放送作家見習いだった私は都内の映画館でアルバイトをしていた。
メジャーな映画を上映する大きな映画館とは違って、マイナーでいわゆる“単館映画”ばかりを上映する小さな映画館だった。
“放送作家には自分の武器がいる”
例えば「スポーツに詳しい」、「グルメに詳しい」、「音楽に詳しい」など、何かひとつ秀でた武器があるとその分野の番組に呼ばれたりするものだ。
先輩作家からそう教えられた私は、昔から好きだった「映画」を自分の武器にしようとした。
それも、みんなが見ているメジャー映画じゃなくマイナーな単館映画に詳しくなれば、きっと重宝がられると思ったからだ。
バイトを始めて半年、仕事にも慣れてきた私はレイトショーの受付を一人で任されていた。
上映中、受付で眠い目をこすりながらウトウトしていた私に一人の女性が話しかけてきた。
「女子トイレの用具入れから、変なうめき声が聞こえるんですけど」
「えっ、ちょっと見てきます」
若干の恐怖はあったが、<まさか用具入れで大便してるとか? だったらネタになるかも>と、放送作家ならではの考えを巡らせながら私はトイレへと向かった。
「うぅ……うぅ……」
用具入れの前で耳をすませると女のうめき声が確かに聞こえたので、私はドアをノックして呼びかけた。
「すいません、大丈夫ですか? 開けてもいいですか?」
返事はなかった。もうこれは開けるしかない、と意を決してドアを開いた。
「え……?」
私は自分の目を疑った。確かに声が聞こえたドアの向こうに、誰もいなかったのだ。そして床一面におびただしい数の髪の毛が散らばっていた。
それもおそらく腰まであるであろう長い毛ばかりが。レイトショーが始まる前にトイレ清掃をしたばっかりだし、来たお客さんの中にこんなに長髪の人はいない。
映画館の入り口も一つだ。私は全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。そして次の日もまったく同じ事が起こった。さらにその三日後にも。
さすがに耐えられなくなった私は、館長に話した。すると館長は全てを話してくれた。
「実はな、お前がここでバイトを始める何年か前に、その用具入れで自殺した女がいたんだ……。
長い髪の女が自分の髪の毛をハサミで切り、それをロープ代わりに首を吊ったんだよ。
俺が第一発見者だったんだけど、本当に悲惨な光景だった。ハサミで一気にザクザク切ったんだろうな……頭は坊主で傷だらけ、スイカみたいな血の縞模様がついてる女が、真っ黒な髪の毛をマフラーみたいにして首を吊ってたんだ。」
詳しく聞けば、毎年その自殺女性の命日前後になると用具入れで心霊現象が起きるのだという。
真相を知り怖くなった私はバイトを辞めた。そして今でも美容室で床に散らばる髪の毛を見ると、寒気と吐き気が私を襲う。
「うぅ……」とうめく私に
「大丈夫ですか?」と美容師。
まったく嫌なトラウマだ。
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