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サスペンスドラマの定番といえば、刑事がついに追いつめた犯人を説得する断崖絶壁のラストシーンである。

もしかしたらもう今では定番ではないかもしれないけど、昔は本当に多かった。

ちなみにこの「断崖パターン」が定着化したのは、デジタルベータカム時代になってから。なぜなら、それ以前に主流だったフィルムや普通のベータカムを使った撮影は、あとあと修正が効かないから往生するのだ。

修正といっても年増女優のわがままに付き合わされて顔のシミを消すとか、大御所俳優のかつらの生え際のズレをごまかすとか、そういうことじゃない。てか、もしそういうことだとしてもこんなところに書けるわけがない。

そんなことしたらそれこそ本当に怖い話になってしまうじゃないか。何を言ってんだ君たちは。

話を戻して——
断崖シーンである。修正できるできないうんぬんは先ほど述べたが、はて、断崖シーンにはそもそもどんな修正が必要だというのか?

それはずばり、「妙なものが写りこむ」からである。

妙なもの。つまり手、つまり足、顔、人影、声、声は声でもうめき声、人魂、かと思ったらまた手。役者の背後の海からにゅっと現れて、彼らの足をつかむ腕をつかむ首をつかむでそれはもう心霊シーンの大安売りである。

だからあとあとデジタル処理の利く媒体でないことにはこちとら仕事にならないわけだ。もちろん、これは何も昔に限った話ではないのですよ。

今だってそうです。そのせいで徹夜で修正作業を強いられる身としては断崖シーンなんて大嫌いだ。

なのにこっちの都合も知らないで、たまにしれっと自殺の名所とか、いわくつきの崖を使おうとする不届き者(脚本家)がいる。私は言ってやる。

「写りますよ?」

と。凄んでやる。
それでも経験の浅い奴にかぎって半信半疑、編集に立ちあわせて、そのおぞましい光景を見せつけて初めて改心する。遅いっつーの。もう撮り終えてんだよ。

幽霊=怖い話? 冗談じゃないです。

あんなもの迷惑以外の何ものでもない。人の仕事の邪魔ばっかしてないでとっと成仏しやがれ!……と、断崖に追いつめ言ってやりたい。
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