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その日私は、3日3晩におよぶ編集作業を終えて泥のように眠っていた。年末年始にオンエアーする2時間特番の編集だった。

朝方に眠りにつき、目が覚めたのは夕方5時。どうやら12時間近く眠っていたようだ。

テレビマンの生活リズムは狂気の沙汰だと常々思う。昼夜逆転とか、そういうレベルじゃない。1日の境目がないというか……。

体を壊す人が多いのも納得だ。それでもテレビが好きだから、みんな続けているのだろう。ダルい体を起こしてシャワーを浴びた。

その日は休みで明日の仕事は昼からだった。飲みに行こうと思い仲の良いディレクターに電話をしたが、仕事があるから今夜はNGと言われてしまった。

私はHDレコーダーに溜まっている好きな番組を見て過ごす事にした。缶ビールをプシュッと開けテーブルに置き、テレビの前のソファーに座った瞬間だった。

カタ カタカタ カタカタカタカタ

缶ビールが小刻みに音を立て始めた。
地震だと気付いた。

ゴゴゴゴゴ……。

それと同時に大きな地鳴りも聞こえ始めた。
嫌な予感が全身を駆け巡った。

ドォンッ!!! ガタガタガタガターッ

爆発音のような鈍い音をきっかけに物凄い揺れがきた。部屋中の棚は倒れ、そこら中に物が散乱した。危うく本棚の下敷きになるところだった。

窓ガラスも次々に割れていく。とにかく外に出ようと、財布だけを手にとり、揺れる家の中で何度も転びそうになりながら玄関に走った。

まだまだ揺れはおさまりそうになかった。来る来ると言われていた東京大地震がついに来た……。

これからどうなるんだ? 避難できる学校は近くにあったっけ? 焦りと不安で胸がいっぱいだった。玄関のドアを勢いよく開けて、転がり出るように外に出た。

さぞ近所もパニックになっているだろうと辺りを見渡すと……。腰の曲がったお婆ちゃんが犬を散歩させている。

向かいの家の2階では奥さんが鼻歌まじりに洗濯物を取り込んでいる。そう、大地震が起きた様子なんて微塵もない、いつもと何ら変わりない平和な夕方の住宅街が広がっていたのだ。

何が起きたのかまったく分からなかった。呆然としながら自宅に戻った私はさらに驚いた。

棚も倒れていないし物も散乱していない、割れたはずの窓ガラスも割れていない……。

「嘘だろ……だってさっき確かに……そうだ!」私は急いでテレビを点けた。地震速報を見るために。

しかし、どこのチャンネルを回しても地震のニュースなど一切流れていなかった。同じ東京に住む友人に電話をして聞いたが、鼻で笑われた。

大地震など起きていなかったのだ。キツネにつままれたような気持ちだった。

しかし、私には心当たりがひとつだけあった。その1週間前、私は1923年の関東大震災で父親を亡くした女性の家に取材で行っていたのだ。

もしかすると、その父親が私にのりうつって同じ体験をさせたのかもしれない──。
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