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放送作家になって10年が経った今、断言できることがある。売れないアイドルほど、大変な職業はない。

もちろん金銭的に生活が苦しいという意味もあるが、それ以上に大変なのが「異常なファンとの交流」である。これは、ある若手アイドルYさんから聞いた本当の話……。

Yさんは月に一回、自身が被写体となる「写真撮影会」を開いていた。テレビや雑誌の仕事が殆どない売れないアイドルYさんにとって、写真撮影会はギャラも貰えてファンと交流できる、大切な仕事のひとつだった。

そしてファンからすれば、憧れのアイドルを自分のカメラで撮影できる絶好のチャンスだった。そんな撮影会に、毎回参加する一人の中年男性。

Yさんをデビュー当時から応援してくれている数少ない熱狂的ファンで、見た目から察するに40代後半、服装はいつもチェックのシャツにGパン、頭は薄毛でバンダナを巻いている。

まさに一目見て“オタク”と分かるその男はいつも最前列を陣取って撮影していた。

スタッフから聞いた話によれば、いつも前日から会場に来て徹夜で並んでいるという…。そんな撮影会を重ねるうちに、Yさんはある事に気がついた。その男がいつもカメラを向けているのはYさんの顔でもなく胸でもなく、股間なのだ。

執拗に股間だけを撮ってくるその男にYさんは恐怖を抱き始めていた。そして時には、Yさんの体を触ってきたりもした。

撮影会は「お触りNG」が当たり前。男はスタッフからいつも注意を受けていたそうだ。しかし男の行動はエスカレートしていく——。

ある日、舞台上でセクシーにポーズをするYさんの足首をグッと鷲掴みしてきて、なんと舞台から引きずり降ろそうとしたのである。

危険を察知したスタッフが駆け付ける前に男は周りのファンたちに羽交い絞めにされていたという。

(余談だが、こういう時のアイドルファンの団結とパワーは本当に凄まじい)
男は金輪際出入り禁止になった。

さらにどのアイドルイベントにも参加できないブラックリスト入りとなった。Yさんも心の底からホッとしたという。

それから半年後。少しずつだがテレビや雑誌の仕事も増え、Yさんは忙しい日々を送っていた。

遅くまで続いたバラエティ番組の収録を終え、夜中に一人暮らしのマンションに帰ってきたYさんが、「疲れた〜」と勢いよくベッドに座った瞬間だった。

ベッドの下から手が伸びてきて足首をグッと掴まれたのだ。そしてグイグイと力任せにベッドの下に引きずり込もうとする男の手。

あまりの恐怖に声も出なかったそうだが、指が太くて脂っこいこの手……、すぐにあの男だと気付いたという。

「離して! 警察呼ぶよ!」

Yさんは必死に抵抗しながら、バッグに常備していた痴漢撃退スプレーを取りだしてベッドの下に噴射し続けた。

すると男は掴んでいる手を離し、ゴキジェットを噴射されたゴキブリのようにベッドの下から這いずり出てきた。

その隙にYさんはキッチンへと駆け込み、包丁を片手に「出てって! 殺すわよ!」と震える体をおさえながら精一杯すごんで見せた。するとその気迫に負けたのか、男は走って逃げていったという。

Yさんはすぐに警察を呼び、到着を待つ間にふとベッドの下を見てみると男が忘れていったリュックサックを見つけた。

中を見てみると、股間の写真だけのアルバムが50冊も出てきたという…。
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