放送作家ほど収入に波がある職業は無いと思う。レギュラー0本の食えない時期が7、8年続くこともあれば、ふとしたきっかけでヒット番組に関わり、名前が売れて瞬く間にレギュラー10本、わずか2年足らずで億単位の金を稼ぎだす事もできる。
ただ、その逆もしかりで、たった1度の番組改編期でレギュラーが全て終了、数百万あった月収が突如10万前後になることも……。
故に放送作家の中には、ある程度稼いだ所でサクっと業界をドロップアウトする人も多い。
私の友人のK君もそのパターンだ。彼は「放送作家界の山口百恵」として今でも語り草になっている。
20代前半からレギュラーを10本以上抱え、巨万の富を稼ぎ出し30歳で業界をドロップアウト。
しかも各レギュラーはまだまだ続いており、むしろ増えていたくらいの時期にスパッと放送作家を辞めたのだ。
私も含め周りは困惑した。
「まだまだ稼げるのに!」「順風満帆なのになぜ?」
彼いわく
「30歳の誕生日に辞めると決めていた」らしい。
山口百恵は引退する際ステージにマイクを置いたが、彼は会議室にペンを置き姿を消した。
その後、彼は世界中を旅行して回っている。私はたまに風の噂で今は香港にいるだのローマにいるだの聞く程度だった。
しかし最近、そんな彼から久しぶりに連絡があった。
「今夜時間ある? スカイプで久しぶりに話さない?」そう書かれたメールだった。スカイプとは簡単に言えばパソコンを使いインターネット上で行うテレビ電話のこと。私も彼の近況が気になっていたので快くOKした。
そして夜。彼はニューヨークのホテルから、私は東京の自宅から、スカイプを通して久しぶりの再会を果たした。しばし思い出話に花が咲いていたのだが……。
ふと、K君の後ろに目をやると1人の女性が椅子に座っていた。カメラに背を向けていて顔は見てとれなかったが、若い女性のようだった。
「なんだよ、彼女も一緒なら言ってくれよ」
「え? 何言ってんの? 俺いま彼女いないよ」
彼はそう言いながら部屋を見回した。
「いやホラ、後ろにいる女の人のこと」
「え? マジで何言ってんの?」
「いやいや、後ろに女がいるじゃん!」
「はぁ? どこに?」
部屋を見回す彼の視線に確実にその女性は入っているのだが、彼は一向に気づかない。私と彼の間に不穏な空気が流れだした。
「女なんかどこにいるっつーんだよ?」
K君はそう言うと席を立ち、バスルームやトイレを見に行った。すると───。それを見計らったように女性はゆっくりとカメラの方を振り向いたのだ。
頬はこけ、まるで薬物中毒者のような、若い白人女性だった。心底ゾッとした。彼女は私と目が合うと、すぅっと席を立ち、カメラの方へ一歩、また一歩と近づいてきた。
距離が近づくにつれスカイプの映像は荒れ始め、ノイズ音まで聞こえ始めた。そして彼女はカメラを覗き込み何やらボソボソ喋り始めた。
激しいノイズにかき消され聞き取れなかったが、まるで呪いをかけられているような感じがした。
「おい! K! 早く戻ってきてくれ!」
そう叫ぶ私の口を塞ごうとするように彼女はやせ細った両手をカメラに向かい伸ばしてきた。
「うわっ」その時、明らかに口元に冷たい手の感触がしたのだ。
どう考えてもあってはらない、感じてはならない、おぞましいその冷たい感触。私はまるでキスをこばむ女性のように反射的に目を瞑り顔をそむけて
「どっかいけ! どっかいけ!」
と叫び続けた。
「どうした? 大丈夫か?」
K君の声が聞こえた。恐る恐るまぶたを開けると、もうあの女の姿は無かった。しかし口元にはあの冷たい感触がまだ残っていた。
「一体何があったんだよ?」
画面には心配そうに私を見つめるK君ひとり。「良かった……」一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、何があったかを伝えようとした刹那だった。
彼の口から発せられた一言に、私の背筋は凍りついた。
「なぁ、お前の後ろにいる女、誰?」
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ただ、その逆もしかりで、たった1度の番組改編期でレギュラーが全て終了、数百万あった月収が突如10万前後になることも……。
故に放送作家の中には、ある程度稼いだ所でサクっと業界をドロップアウトする人も多い。
私の友人のK君もそのパターンだ。彼は「放送作家界の山口百恵」として今でも語り草になっている。
20代前半からレギュラーを10本以上抱え、巨万の富を稼ぎ出し30歳で業界をドロップアウト。
しかも各レギュラーはまだまだ続いており、むしろ増えていたくらいの時期にスパッと放送作家を辞めたのだ。
私も含め周りは困惑した。
「まだまだ稼げるのに!」「順風満帆なのになぜ?」
彼いわく
「30歳の誕生日に辞めると決めていた」らしい。
山口百恵は引退する際ステージにマイクを置いたが、彼は会議室にペンを置き姿を消した。
その後、彼は世界中を旅行して回っている。私はたまに風の噂で今は香港にいるだのローマにいるだの聞く程度だった。
しかし最近、そんな彼から久しぶりに連絡があった。
「今夜時間ある? スカイプで久しぶりに話さない?」そう書かれたメールだった。スカイプとは簡単に言えばパソコンを使いインターネット上で行うテレビ電話のこと。私も彼の近況が気になっていたので快くOKした。
そして夜。彼はニューヨークのホテルから、私は東京の自宅から、スカイプを通して久しぶりの再会を果たした。しばし思い出話に花が咲いていたのだが……。
ふと、K君の後ろに目をやると1人の女性が椅子に座っていた。カメラに背を向けていて顔は見てとれなかったが、若い女性のようだった。
「なんだよ、彼女も一緒なら言ってくれよ」
「え? 何言ってんの? 俺いま彼女いないよ」
彼はそう言いながら部屋を見回した。
「いやホラ、後ろにいる女の人のこと」
「え? マジで何言ってんの?」
「いやいや、後ろに女がいるじゃん!」
「はぁ? どこに?」
部屋を見回す彼の視線に確実にその女性は入っているのだが、彼は一向に気づかない。私と彼の間に不穏な空気が流れだした。
「女なんかどこにいるっつーんだよ?」
K君はそう言うと席を立ち、バスルームやトイレを見に行った。すると───。それを見計らったように女性はゆっくりとカメラの方を振り向いたのだ。
頬はこけ、まるで薬物中毒者のような、若い白人女性だった。心底ゾッとした。彼女は私と目が合うと、すぅっと席を立ち、カメラの方へ一歩、また一歩と近づいてきた。
距離が近づくにつれスカイプの映像は荒れ始め、ノイズ音まで聞こえ始めた。そして彼女はカメラを覗き込み何やらボソボソ喋り始めた。
激しいノイズにかき消され聞き取れなかったが、まるで呪いをかけられているような感じがした。
「おい! K! 早く戻ってきてくれ!」
そう叫ぶ私の口を塞ごうとするように彼女はやせ細った両手をカメラに向かい伸ばしてきた。
「うわっ」その時、明らかに口元に冷たい手の感触がしたのだ。
どう考えてもあってはらない、感じてはならない、おぞましいその冷たい感触。私はまるでキスをこばむ女性のように反射的に目を瞑り顔をそむけて
「どっかいけ! どっかいけ!」
と叫び続けた。
「どうした? 大丈夫か?」
K君の声が聞こえた。恐る恐るまぶたを開けると、もうあの女の姿は無かった。しかし口元にはあの冷たい感触がまだ残っていた。
「一体何があったんだよ?」
画面には心配そうに私を見つめるK君ひとり。「良かった……」一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、何があったかを伝えようとした刹那だった。
彼の口から発せられた一言に、私の背筋は凍りついた。
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