カッコイイ見た目と、親しみやすいキャラクターで人気の芸人A。
特に話術やリアクションが優れているわけではないのだが、イケメンを鼻にかけずにどんな仕事も一生懸命こなすAは、業界関係者からの評価が高かった。
「実はあいつ、世間の評価からかけ離れた一面があるんですよ」
と、Aの相方のTは言う。大学時代からAと友達であるTは、Aの恐ろしい一面を知っているという。大学に入学してすぐ、AとTは友達になった。
Aは入学してすぐに女子から告白されるような、典型的な目立つヤツだった。対してTは、ブサイクで女子とは無縁。
対照的な2人だった。周りの生徒も不思議に思ったようで、Aに「なんでTなんかと仲良くしてんの?」と聞く生徒までいた。
しかしAは周りの目を気にすること無くTを慕い続け、TもAを親友とまで思うようになっていった。
ここまでは、お笑いコンビのいい話である。
「ちょっと、ウチに来ないか」
休講が続き、午後の時間がポッカリと空いてしまったある日、Aが唐突に誘ってきた。
大学が終わってから飲みに行き、そのままAの家で夜を明かす事は多かったものの、Aがこうやって改まった誘い方をしてくるのは初めてだった。
部屋に着くなり、Aは本のような物を数冊持ち出して来て、Tの前に並べた。それはどうやら、Aの小学校、中学校、高校時代の卒業アルバムのようだ。
「いきなりどうしたんだよ」
「若かりし頃の俺だ。興味あるだろう」
別に無いよ、と思いつつも、せっかくなので見せてもらうことにした。Tが小学校のアルバムを手に取ると、
「待て、高校からだ」
と、高校のアルバムを差し出してきた。その表情は、恐ろしいほどに真剣だった。
「わかったよ。お前、今日変だぞ」
Aの気迫に押されて、高校のアルバムを開いてみる。アルバムの中にはたくさんの生徒が写っているが、やはりAは一段と目立っていた。
さぞかし素晴らしい高校生活だったんでしょうね、と言いたくなるような、楽しそうな姿である。
「予想通りだったよ」
Aに高校のアルバムを返すと、Aは無言で小学校のアルバムを渡してきた。小学校のアルバムでは、Aの姿を見つけられなかった。
時間を掛けて名前を探していくと、たしかにAの名前はある。しかし、そこに写っている少年はかなり太っており、鼻の横に巨大なホクロがあるイモっぽい子供だった。
「これ、お前じゃないよな」
Tが聞くと、Aは中学校のアルバムを開いて見せてきた。そこには例のイモっぽい少年がさらに太り、ホクロも巨大化した姿が写っていた。
「これ、俺だよ」
Aは自虐的な笑みを浮かべながら言った。
「実は俺、中学まではめちゃめちゃいじめられててさ、高校は家から離れた私立に行ったんだ。そこでもう狂ったようにダイエットに励んで、顔のホクロも手術で取って。母ちゃんに泣いて頼んで、整形もしたんだ」
「……え、あ、そ、そうなんだ」
Tにはそれしか言えなかった。
「入学してすぐ、俺に告白してきた子いるだろ? あいつ、小中と俺のことをいじめてた主犯格」
小、中学校のアルバムを指さしながら、Aは言った。たしかに、Aに告白した女子らしき子が写っている。
「まさか中学の時のデブと同1人物だとは思わなかったんだろうな。まだ返事してないんだけどさ……付き合おうかと思うんだ」
「ぁえっ!?」
Tは驚いて甲高い声で反応してしまった。
しかしAは、真剣な表情のままである。
「な、なんだよ。てっきり『復讐してやる』っていうのかと思った」
つまらない冗談で返すのが精一杯のT。
「あっはははははは!」
Tの冗談を聞いて、Aが笑い出した。よかった、苦し紛れの冗談だったけれど、重い空気が変わった。ホッとして、Tも笑顔になりかけた。
すると、
「ははは……復讐ねぇ、するに決まってるじゃん」
突然恐ろしい眼つきになったAが、Tを見てニヤリと笑った。その殺気立った笑みに、Tは何も言えずに引きつった笑顔を返すことしかできなかった。
それから間もなくして、Aは元いじめの主犯格の子と付き合い始めた。しかし数週間で、その子は学校をやめてしまった。
噂によると、その子はガリガリに痩せこけて、別人のようになっていたという。
「お前とは何でも言い合える仲だと思っているけど、何をしたかは言わない」
Aはあの時のような恐ろしい眼つきで、ニヤリと笑った。その後、TはAの押しに負けて、お笑いコンビを組んで成功した。
しかしTは、
「Aの黒い部分がまた現れたらどうしよう」とヒヤヒヤしているらしい。
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特に話術やリアクションが優れているわけではないのだが、イケメンを鼻にかけずにどんな仕事も一生懸命こなすAは、業界関係者からの評価が高かった。
「実はあいつ、世間の評価からかけ離れた一面があるんですよ」
と、Aの相方のTは言う。大学時代からAと友達であるTは、Aの恐ろしい一面を知っているという。大学に入学してすぐ、AとTは友達になった。
Aは入学してすぐに女子から告白されるような、典型的な目立つヤツだった。対してTは、ブサイクで女子とは無縁。
対照的な2人だった。周りの生徒も不思議に思ったようで、Aに「なんでTなんかと仲良くしてんの?」と聞く生徒までいた。
しかしAは周りの目を気にすること無くTを慕い続け、TもAを親友とまで思うようになっていった。
ここまでは、お笑いコンビのいい話である。
「ちょっと、ウチに来ないか」
休講が続き、午後の時間がポッカリと空いてしまったある日、Aが唐突に誘ってきた。
大学が終わってから飲みに行き、そのままAの家で夜を明かす事は多かったものの、Aがこうやって改まった誘い方をしてくるのは初めてだった。
部屋に着くなり、Aは本のような物を数冊持ち出して来て、Tの前に並べた。それはどうやら、Aの小学校、中学校、高校時代の卒業アルバムのようだ。
「いきなりどうしたんだよ」
「若かりし頃の俺だ。興味あるだろう」
別に無いよ、と思いつつも、せっかくなので見せてもらうことにした。Tが小学校のアルバムを手に取ると、
「待て、高校からだ」
と、高校のアルバムを差し出してきた。その表情は、恐ろしいほどに真剣だった。
「わかったよ。お前、今日変だぞ」
Aの気迫に押されて、高校のアルバムを開いてみる。アルバムの中にはたくさんの生徒が写っているが、やはりAは一段と目立っていた。
さぞかし素晴らしい高校生活だったんでしょうね、と言いたくなるような、楽しそうな姿である。
「予想通りだったよ」
Aに高校のアルバムを返すと、Aは無言で小学校のアルバムを渡してきた。小学校のアルバムでは、Aの姿を見つけられなかった。
時間を掛けて名前を探していくと、たしかにAの名前はある。しかし、そこに写っている少年はかなり太っており、鼻の横に巨大なホクロがあるイモっぽい子供だった。
「これ、お前じゃないよな」
Tが聞くと、Aは中学校のアルバムを開いて見せてきた。そこには例のイモっぽい少年がさらに太り、ホクロも巨大化した姿が写っていた。
「これ、俺だよ」
Aは自虐的な笑みを浮かべながら言った。
「実は俺、中学まではめちゃめちゃいじめられててさ、高校は家から離れた私立に行ったんだ。そこでもう狂ったようにダイエットに励んで、顔のホクロも手術で取って。母ちゃんに泣いて頼んで、整形もしたんだ」
「……え、あ、そ、そうなんだ」
Tにはそれしか言えなかった。
「入学してすぐ、俺に告白してきた子いるだろ? あいつ、小中と俺のことをいじめてた主犯格」
小、中学校のアルバムを指さしながら、Aは言った。たしかに、Aに告白した女子らしき子が写っている。
「まさか中学の時のデブと同1人物だとは思わなかったんだろうな。まだ返事してないんだけどさ……付き合おうかと思うんだ」
「ぁえっ!?」
Tは驚いて甲高い声で反応してしまった。
しかしAは、真剣な表情のままである。
「な、なんだよ。てっきり『復讐してやる』っていうのかと思った」
つまらない冗談で返すのが精一杯のT。
「あっはははははは!」
Tの冗談を聞いて、Aが笑い出した。よかった、苦し紛れの冗談だったけれど、重い空気が変わった。ホッとして、Tも笑顔になりかけた。
すると、
「ははは……復讐ねぇ、するに決まってるじゃん」
突然恐ろしい眼つきになったAが、Tを見てニヤリと笑った。その殺気立った笑みに、Tは何も言えずに引きつった笑顔を返すことしかできなかった。
それから間もなくして、Aは元いじめの主犯格の子と付き合い始めた。しかし数週間で、その子は学校をやめてしまった。
噂によると、その子はガリガリに痩せこけて、別人のようになっていたという。
「お前とは何でも言い合える仲だと思っているけど、何をしたかは言わない」
Aはあの時のような恐ろしい眼つきで、ニヤリと笑った。その後、TはAの押しに負けて、お笑いコンビを組んで成功した。
しかしTは、
「Aの黒い部分がまた現れたらどうしよう」とヒヤヒヤしているらしい。
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