「ねぇ、駅前の路上にいる紫のドレスを着た占い師が、すごい当たるって評判なんだって!今日の夜にでも行ってみない?」
その日、私は大学で知り合った友人ユキコにそう誘われた。もう10年以上前の話だ。
今でこそ有難いことにテレビドラマに出させて貰ったり、一応女優としてやっていけてる私だが、大学生当時は下北沢の小劇団に所属しながら学業とアルバイトに明け暮れる日々だった。
そのせいもあって、ユキコの言う占い師にすごく興味があった。その先の将来が不安で不安で仕方なかった時期だからだ。
ユキコは根っからの恋愛体質で、占いの類が大好きだった。その時も付き合っていた彼氏との将来を占って貰いたかったんだと思う。
かくして私たちは大学の授業終わりで、都心の○○駅前にいるという紫のドレスの占い師のもとに向かった。その占い師は「人間のオーラが見える」というのが売りだった。
今でこそオーラ占いはポピュラーなものだが、当時は珍しかった。駅前に到着すると、たくさんの占い師が路上に椅子を出して客を待っていた。
少し見渡すとすぐに紫のドレスを着た占い師は見つかった。すでに長い行列が出来ていたからだ。
「ホラ、やっぱり流行ってる! 噂は本当なんだよ!」
ユキコのテンションは上がっていた。正直そこまで信じていなかった私も、その行列を見るとさすがにワクワクしてきた。
私たちは最後尾に並んだ。じゃんけんで決めた見て貰う順番は、私が先でユキコが後。30分程度で私の順番が来た。
「女優として成功できるか、占って欲しいんです」
そう告げると占い師は、私の頭からつま先までゆっくりと何度も上下するように見てきた。だけどその目は、私自身ではなく私の少し後ろを見ているような感じだった。
そして占い師はボソボソと話し始めた。言うに、3年後の春に大きなチャンスがくるからそれまでは我慢して頑張りなさい、とのことだった。
私は正直、3年後じゃ当たってるかどうか分かるのは随分先だな……と思った。しかし今にして思えばズバリ当たっていたのだ。
それから3年後の4月、とあるオーディションに合格したのを機に女優として食べれるようになったのだ。
そして次はユキコの番。前述の通り、とても楽しみにしていたユキコは、
「お願いします!」
と一礼して占い師の前に立った。するとそれまで落ち着き払っていた占い師が急にスゴイ剣幕でユキコに怒鳴った。
「あなたは帰りなさい!」
「え……?」
動揺するユキコに占い師は続ける。
「いいから、早く帰りなさいと言ってるんです!」
「……はい。分かりました」
ユキコは少し語気を荒げて、納得のいかない表情でその場を立ち去り、少し離れた場所で待つ私のもとに来た。
「最悪。何あの占い師。なんで私だけ占ってくれないの?」
すでに次の客に助言を始めている占い師を横目に見ながら、私に文句の限りをぶちまけるユキコ。
私も意味が分からなかった。ユキコの態度が気に入らなかったのか? 色々考えても理由が見つからなかった。
「仕方ないよ……もう帰ろっか」
私がそう言うと、ユキコは、
「イライラするから飲みに行こうよ」
と私を誘った。しかし次の日が朝から舞台稽古だった私は誘いを断り、ひとり家に帰った。そしてユキコは他の友達を誘い飲みに行ったのだが……。
その夜、居酒屋で遅くまで飲んだ帰り道にユキコは、通り魔に首をナイフで切りつけられ殺された。
あの占い師の言う通り、早く帰っていれば──。
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その日、私は大学で知り合った友人ユキコにそう誘われた。もう10年以上前の話だ。
今でこそ有難いことにテレビドラマに出させて貰ったり、一応女優としてやっていけてる私だが、大学生当時は下北沢の小劇団に所属しながら学業とアルバイトに明け暮れる日々だった。
そのせいもあって、ユキコの言う占い師にすごく興味があった。その先の将来が不安で不安で仕方なかった時期だからだ。
ユキコは根っからの恋愛体質で、占いの類が大好きだった。その時も付き合っていた彼氏との将来を占って貰いたかったんだと思う。
かくして私たちは大学の授業終わりで、都心の○○駅前にいるという紫のドレスの占い師のもとに向かった。その占い師は「人間のオーラが見える」というのが売りだった。
今でこそオーラ占いはポピュラーなものだが、当時は珍しかった。駅前に到着すると、たくさんの占い師が路上に椅子を出して客を待っていた。
少し見渡すとすぐに紫のドレスを着た占い師は見つかった。すでに長い行列が出来ていたからだ。
「ホラ、やっぱり流行ってる! 噂は本当なんだよ!」
ユキコのテンションは上がっていた。正直そこまで信じていなかった私も、その行列を見るとさすがにワクワクしてきた。
私たちは最後尾に並んだ。じゃんけんで決めた見て貰う順番は、私が先でユキコが後。30分程度で私の順番が来た。
「女優として成功できるか、占って欲しいんです」
そう告げると占い師は、私の頭からつま先までゆっくりと何度も上下するように見てきた。だけどその目は、私自身ではなく私の少し後ろを見ているような感じだった。
そして占い師はボソボソと話し始めた。言うに、3年後の春に大きなチャンスがくるからそれまでは我慢して頑張りなさい、とのことだった。
私は正直、3年後じゃ当たってるかどうか分かるのは随分先だな……と思った。しかし今にして思えばズバリ当たっていたのだ。
それから3年後の4月、とあるオーディションに合格したのを機に女優として食べれるようになったのだ。
そして次はユキコの番。前述の通り、とても楽しみにしていたユキコは、
「お願いします!」
と一礼して占い師の前に立った。するとそれまで落ち着き払っていた占い師が急にスゴイ剣幕でユキコに怒鳴った。
「あなたは帰りなさい!」
「え……?」
動揺するユキコに占い師は続ける。
「いいから、早く帰りなさいと言ってるんです!」
「……はい。分かりました」
ユキコは少し語気を荒げて、納得のいかない表情でその場を立ち去り、少し離れた場所で待つ私のもとに来た。
「最悪。何あの占い師。なんで私だけ占ってくれないの?」
すでに次の客に助言を始めている占い師を横目に見ながら、私に文句の限りをぶちまけるユキコ。
私も意味が分からなかった。ユキコの態度が気に入らなかったのか? 色々考えても理由が見つからなかった。
「仕方ないよ……もう帰ろっか」
私がそう言うと、ユキコは、
「イライラするから飲みに行こうよ」
と私を誘った。しかし次の日が朝から舞台稽古だった私は誘いを断り、ひとり家に帰った。そしてユキコは他の友達を誘い飲みに行ったのだが……。
その夜、居酒屋で遅くまで飲んだ帰り道にユキコは、通り魔に首をナイフで切りつけられ殺された。
あの占い師の言う通り、早く帰っていれば──。
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