放送作家としてやっていくためには「文章力がないとダメだよね?」とか「人と違ったセンスを持ってないと務まらないよね?」などと聞かれることが多いが、私はいつも「そんなことないよ」と答えている。
これは謙遜でも何でもなく、実際に、素晴らしい文章力や奇天烈なセンスだけでこの世界を生き抜いている人など、ほとんどいないに等しいからだ。
そりゃもちろん、文章力もセンスも全くのゼロでは話にならないが、それよりも重要なのは発言力である。
作家と言うと、一日中パソコンとにらめっこをしながら原稿を書いているというイメージを持たれるが、決してそうではないし、原稿も自分の好き勝手に書いていいというものではない。
番組の台本などを書く際は、事前にディレクター他スタッフたちと話し合って、内容を詰めてから執筆にかかるのであるが、この時の話し合いが肝なのだ。
番組の大まかな流れを考え、何か面白い展開案はないか? とか、このVTRはどのタイミングで出すか? とか、色々話しながら進めていくのだが、ここで、だんまりを決め込んではいけない。
間違っててもいいから、何らかの言葉を発し、自分の意見を述べることが重要だ。
最悪、何も思いつかなければ、ディレクターや他の作家の意見に乗っかってもいい。とにもかくにも、ハキハキと受け答えすることが、作家に求められる一番の要素だと思う。
私は東京の下町に生まれ育ち、両親が自営業をしていたこともあって、幼い頃から、ちょっとおませな江戸っ子だった。
関西人ほどではないと思うが、口も達者で、日頃から大人たちと接することが多かったせいか、近所のおじさんおばさんとも物怖じせずに会話していた。
その甲斐あって、作家になった今でも、人前でペラペラ適当なことを喋れるのだが……。
この性格のお蔭で、私は危険から身を守れたこともある。
あれは、私がまだ小学5年生の頃。
近所の公園で友達と遊び、その帰り道、一人で歩いていた時のことだった。
「ちょっと、お嬢ちゃん」
突然、知らない男の人に声をかけられた。
「はい。なんですか?」
私は立ち止まって、丁寧な口調で返すと、
「おじさん、地下鉄に乗りたいんだけど、駅へは、この道で合ってるのかな?」
男の人はそう聞いてきたので、私は答えた。
「はい。合ってます。ここをずっと真っ直ぐ行ったら、お花屋さんがあって……そこ通り越して、ちょっと行ったところを左に曲がったら、すぐです」
そのように、ちゃんと敬語を交えながらハキハキと答えた私に対し、
「そうか、よかった。教えてくれて、ありがとうね」
と、男の人は私の頭の上に手を乗せて、お礼を言った。
「どういたしまして」
私が少し照れながら、そう言うと、男の人はちょっと微笑んで、
「君はしっかりしてて、いい子だなぁ。この近所に住んでるの?」
なんて言うもんだから、調子に乗った私は、
「うん。ウチは、この近所。お父さんとお母さんが、すぐそばでお店やってるの!」
興奮して、すっかりタメグチになり、知らない男の人に家のことをペラペラと喋ってしまったのだが、そんな私に男の人はこう言った。
「そうか。じゃあ、今日、道を教えてもらったお礼に、おじさんも、君に1つだけ教えてあげるけど……これは、家に帰ったら、お父さんとお母さんにも教えてあげなね」
と、前置きをした後……、
「いい? 明日の朝8時前後、この時間帯だけは地下鉄の駅に絶対、近づいちゃダメだよ。何があっても、絶対に! ね! わかった?」
私はそもそも、その時間は学校に通っているし、父母も自営なので、そんな時間に電車に乗ることは絶対にないのだが、この時の男の人の目があまりに真剣で、ちょっと怖かった。だから余計なことは言わずに「はい」とだけ答えた。
その後、男の人は「じゃあね」と言い残し、地下鉄の駅へと向かっていった。
そして、翌日──。
勘のイイ人なら、もうおわかりだろう。
日本中を震撼させた、あの“地下鉄サ○ン事件”が起こったのだ。
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これは謙遜でも何でもなく、実際に、素晴らしい文章力や奇天烈なセンスだけでこの世界を生き抜いている人など、ほとんどいないに等しいからだ。
そりゃもちろん、文章力もセンスも全くのゼロでは話にならないが、それよりも重要なのは発言力である。
作家と言うと、一日中パソコンとにらめっこをしながら原稿を書いているというイメージを持たれるが、決してそうではないし、原稿も自分の好き勝手に書いていいというものではない。
番組の台本などを書く際は、事前にディレクター他スタッフたちと話し合って、内容を詰めてから執筆にかかるのであるが、この時の話し合いが肝なのだ。
番組の大まかな流れを考え、何か面白い展開案はないか? とか、このVTRはどのタイミングで出すか? とか、色々話しながら進めていくのだが、ここで、だんまりを決め込んではいけない。
間違っててもいいから、何らかの言葉を発し、自分の意見を述べることが重要だ。
最悪、何も思いつかなければ、ディレクターや他の作家の意見に乗っかってもいい。とにもかくにも、ハキハキと受け答えすることが、作家に求められる一番の要素だと思う。
私は東京の下町に生まれ育ち、両親が自営業をしていたこともあって、幼い頃から、ちょっとおませな江戸っ子だった。
関西人ほどではないと思うが、口も達者で、日頃から大人たちと接することが多かったせいか、近所のおじさんおばさんとも物怖じせずに会話していた。
その甲斐あって、作家になった今でも、人前でペラペラ適当なことを喋れるのだが……。
この性格のお蔭で、私は危険から身を守れたこともある。
あれは、私がまだ小学5年生の頃。
近所の公園で友達と遊び、その帰り道、一人で歩いていた時のことだった。
「ちょっと、お嬢ちゃん」
突然、知らない男の人に声をかけられた。
「はい。なんですか?」
私は立ち止まって、丁寧な口調で返すと、
「おじさん、地下鉄に乗りたいんだけど、駅へは、この道で合ってるのかな?」
男の人はそう聞いてきたので、私は答えた。
「はい。合ってます。ここをずっと真っ直ぐ行ったら、お花屋さんがあって……そこ通り越して、ちょっと行ったところを左に曲がったら、すぐです」
そのように、ちゃんと敬語を交えながらハキハキと答えた私に対し、
「そうか、よかった。教えてくれて、ありがとうね」
と、男の人は私の頭の上に手を乗せて、お礼を言った。
「どういたしまして」
私が少し照れながら、そう言うと、男の人はちょっと微笑んで、
「君はしっかりしてて、いい子だなぁ。この近所に住んでるの?」
なんて言うもんだから、調子に乗った私は、
「うん。ウチは、この近所。お父さんとお母さんが、すぐそばでお店やってるの!」
興奮して、すっかりタメグチになり、知らない男の人に家のことをペラペラと喋ってしまったのだが、そんな私に男の人はこう言った。
「そうか。じゃあ、今日、道を教えてもらったお礼に、おじさんも、君に1つだけ教えてあげるけど……これは、家に帰ったら、お父さんとお母さんにも教えてあげなね」
と、前置きをした後……、
「いい? 明日の朝8時前後、この時間帯だけは地下鉄の駅に絶対、近づいちゃダメだよ。何があっても、絶対に! ね! わかった?」
私はそもそも、その時間は学校に通っているし、父母も自営なので、そんな時間に電車に乗ることは絶対にないのだが、この時の男の人の目があまりに真剣で、ちょっと怖かった。だから余計なことは言わずに「はい」とだけ答えた。
その後、男の人は「じゃあね」と言い残し、地下鉄の駅へと向かっていった。
そして、翌日──。
勘のイイ人なら、もうおわかりだろう。
日本中を震撼させた、あの“地下鉄サ○ン事件”が起こったのだ。
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