神戸市東灘区で生まれ育ち、高校卒業後、NSC(吉本総合芸能学院)に入って芸人を志した僕──今では、東京でそこそこの生活をしているSです。
関西での長い下積み時代を経て東京に進出してきた僕と相方は、ずいぶん辛い思いも経験しましたが、僕の人生の中で一番辛かったのは、1995年の、あの時。
1995年1月17日。
神戸の街を一瞬にしてぶち壊した、あの日のことを僕は一生忘れません。
明け方、まだ薄暗い空の下、寝床で深い眠りについていた僕は、ゴゴゴゴ……ドーーーン! という物凄い音と、今までに体験したことのない激しすぎる揺れで目を覚ました。
「なんや? なんや?」
突然の出来事に何が起こったかわからず動揺しているそばから、タンスや本棚が次々に倒れ、隣の兄の部屋からも、バターン! パリーン! と、物が倒れたり割れたりする音が聞こえてきました。
「なんやねん? 一体、何が起こったんや?」
僕は、その時、まだ事態が把握できなかったんですが、兄と両親が、床に散らばったガラスを蹴散らしながら僕の部屋にやって来て、
「おい! 地震や、地震! 避難するぞ!」
そう叫ぶのを聞いて、ようやく呑み込めたのです。
僕たち家族は、地震でメチャクチャに崩壊した神戸の街の中、通常なら15分ほどで辿り着くような緊急避難所まで、1時間近くかけて歩きました。
途中、建物が崩れて道を塞いでいたり、火災が起こっていて通れない箇所があったりしたからです。
そうこうして辿り着いた避難所には、すでに多くの人たちが集まっており、場内はごった返していました。
「うわぁ……すげぇなぁ……」
その様子に僕はすっかり滅入ってしまったのですが、ちょっと嬉しい出来事もありました。
それは、避難所で自分たちの場所を確保して、少し落ち着いていた時のこと。
「おい! S! Sやないか!」
そう言って声をかけてきたのは、しばらく連絡を取っていなかった高校時代の友人でした。
「おぉ~! 久しぶり! お前、どないしとってん? 元気やったか?」
「おう、俺は元気やったで。お前も元気そうやんけ。てゆうか、この前、テレビ見たで。もうすっかり売れっ子やなぁ!」
「何ゆうてんねん! まだまだですわ」
こんな風に、久々に会った友人と盛り上がっていたら、次から次へと懐かしい面々が集まり、プチ同窓会的な感じになってきました。
高校の友人に中学の友人……みんな本当に久しぶりでした。
芸人になってからというもの、学生時代の友人と遊ぶ機会がめっきり減ってしまった僕は、思わぬ形で彼らに再会できたことがとても嬉しかったんです。
そんな時、一人の見慣れない男が僕の元にやって来ました。
「あの……S君?」
か細い声で不安気に声をかけてきた彼に対し、
「おう……そうやけど。えっと……ごめん、誰やったっけ?」
名前がどうしても思い浮かばず、正直にそう返した僕。すると、男は答えました。
「あの……僕、小学校で同じクラスやった根岸やけど……」
僕は、その名前を聞いてもピンと来なかったんですが、話を合わさないとマズイと思い、
「おぉ~! 根岸! 根岸な……。思い出した、思い出した。うっわぁ! めっちゃ久しぶりやん! 元気してた?」
なんとか、その場を繕おうとすると、根岸は少し笑顔になって、
「あ……うん。まあ、元気にしてた……かな」
僕は、そんな根岸の様子を見て、言いました。
「なんやねん! その元気なさげな言い方は!しっかりせえよ! せっかく、こうやって生き残れたんやから! なっ!」
根岸の背中をバンバンと叩きながら、そう言うと、
「うん、せやな。ありがとう。S君に会えて良かったわ……。ほな! 僕、行くわ! S君、ホンマにありがとうなぁ……」
根岸は、若干フラつきながら、その場を去って行きました。それから半年ほど経った、ある日。
徐々に復興しつつあった神戸の街で、僕は偶然、小学時代の級友に会いました。
そいつとは本当に仲が良くて、しょっちゅう遊んでいたので、顔を見ただけですぐにわかり、お互い「お~!」と声を上げました。
「お前、無事やったんか! 良かったなぁ!」
「お前こそ、無事で良かったわ! 避難所で会わんかったから、心配したで」
こんな風に会話が始まり、昔の思い出話に花が咲き始めた頃、僕は、ふと根岸のことが気になって、そいつに聞いてみました。
「なあ、あのさぁ、お前、根岸っていうヤツ、覚えてる? この間、避難所で会って声かけられてんけど、どうしても思い出せんくて……」
そう話した瞬間、そいつは顔色を変えて話し出しました。
「え……? 根岸って……小3の時、俺らと同じクラスやったけど、病弱なヤツで、結構イジメられてて……。お前、学級委員やったし、イジメてたヤツのこと注意して、アイツの肩持ってたやん」
僕は、その話を聞いて、なんとなく「あぁ、そういえば」と思い出してきたのですが、そいつは、続けて言いました。
「でも……アイツ、死んだで。中学入ってから病気が悪化して、ずっと寝たきりの状態になってたらしいねんけど、地震の時、アイツが入院してた病院、全壊してもうて……助からんかったって」
そんなアホな……。あの時、確かに僕は根岸の体にも触れたのに……。アイツが死んでたなんて、絶対、有り得へん!
そう思った僕は、その後、色んな人に聞いて調べてみたのですが、やはり、彼は間違いなく、地震の起きた瞬間に死んでいたようなんです。
あの日、僕に会いに来た根岸は、去り際に「ありがとう」と言ってくれましたが、あれは、昔、彼を庇ったことに対するお礼だったのでしょうか?
毎年、1月17日が近づくと、震災時に感じた恐怖感と共に、今にも闇に消え入りそうなアイツの姿を思い出します。
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関西での長い下積み時代を経て東京に進出してきた僕と相方は、ずいぶん辛い思いも経験しましたが、僕の人生の中で一番辛かったのは、1995年の、あの時。
1995年1月17日。
神戸の街を一瞬にしてぶち壊した、あの日のことを僕は一生忘れません。
明け方、まだ薄暗い空の下、寝床で深い眠りについていた僕は、ゴゴゴゴ……ドーーーン! という物凄い音と、今までに体験したことのない激しすぎる揺れで目を覚ました。
「なんや? なんや?」
突然の出来事に何が起こったかわからず動揺しているそばから、タンスや本棚が次々に倒れ、隣の兄の部屋からも、バターン! パリーン! と、物が倒れたり割れたりする音が聞こえてきました。
「なんやねん? 一体、何が起こったんや?」
僕は、その時、まだ事態が把握できなかったんですが、兄と両親が、床に散らばったガラスを蹴散らしながら僕の部屋にやって来て、
「おい! 地震や、地震! 避難するぞ!」
そう叫ぶのを聞いて、ようやく呑み込めたのです。
僕たち家族は、地震でメチャクチャに崩壊した神戸の街の中、通常なら15分ほどで辿り着くような緊急避難所まで、1時間近くかけて歩きました。
途中、建物が崩れて道を塞いでいたり、火災が起こっていて通れない箇所があったりしたからです。
そうこうして辿り着いた避難所には、すでに多くの人たちが集まっており、場内はごった返していました。
「うわぁ……すげぇなぁ……」
その様子に僕はすっかり滅入ってしまったのですが、ちょっと嬉しい出来事もありました。
それは、避難所で自分たちの場所を確保して、少し落ち着いていた時のこと。
「おい! S! Sやないか!」
そう言って声をかけてきたのは、しばらく連絡を取っていなかった高校時代の友人でした。
「おぉ~! 久しぶり! お前、どないしとってん? 元気やったか?」
「おう、俺は元気やったで。お前も元気そうやんけ。てゆうか、この前、テレビ見たで。もうすっかり売れっ子やなぁ!」
「何ゆうてんねん! まだまだですわ」
こんな風に、久々に会った友人と盛り上がっていたら、次から次へと懐かしい面々が集まり、プチ同窓会的な感じになってきました。
高校の友人に中学の友人……みんな本当に久しぶりでした。
芸人になってからというもの、学生時代の友人と遊ぶ機会がめっきり減ってしまった僕は、思わぬ形で彼らに再会できたことがとても嬉しかったんです。
そんな時、一人の見慣れない男が僕の元にやって来ました。
「あの……S君?」
か細い声で不安気に声をかけてきた彼に対し、
「おう……そうやけど。えっと……ごめん、誰やったっけ?」
名前がどうしても思い浮かばず、正直にそう返した僕。すると、男は答えました。
「あの……僕、小学校で同じクラスやった根岸やけど……」
僕は、その名前を聞いてもピンと来なかったんですが、話を合わさないとマズイと思い、
「おぉ~! 根岸! 根岸な……。思い出した、思い出した。うっわぁ! めっちゃ久しぶりやん! 元気してた?」
なんとか、その場を繕おうとすると、根岸は少し笑顔になって、
「あ……うん。まあ、元気にしてた……かな」
僕は、そんな根岸の様子を見て、言いました。
「なんやねん! その元気なさげな言い方は!しっかりせえよ! せっかく、こうやって生き残れたんやから! なっ!」
根岸の背中をバンバンと叩きながら、そう言うと、
「うん、せやな。ありがとう。S君に会えて良かったわ……。ほな! 僕、行くわ! S君、ホンマにありがとうなぁ……」
根岸は、若干フラつきながら、その場を去って行きました。それから半年ほど経った、ある日。
徐々に復興しつつあった神戸の街で、僕は偶然、小学時代の級友に会いました。
そいつとは本当に仲が良くて、しょっちゅう遊んでいたので、顔を見ただけですぐにわかり、お互い「お~!」と声を上げました。
「お前、無事やったんか! 良かったなぁ!」
「お前こそ、無事で良かったわ! 避難所で会わんかったから、心配したで」
こんな風に会話が始まり、昔の思い出話に花が咲き始めた頃、僕は、ふと根岸のことが気になって、そいつに聞いてみました。
「なあ、あのさぁ、お前、根岸っていうヤツ、覚えてる? この間、避難所で会って声かけられてんけど、どうしても思い出せんくて……」
そう話した瞬間、そいつは顔色を変えて話し出しました。
「え……? 根岸って……小3の時、俺らと同じクラスやったけど、病弱なヤツで、結構イジメられてて……。お前、学級委員やったし、イジメてたヤツのこと注意して、アイツの肩持ってたやん」
僕は、その話を聞いて、なんとなく「あぁ、そういえば」と思い出してきたのですが、そいつは、続けて言いました。
「でも……アイツ、死んだで。中学入ってから病気が悪化して、ずっと寝たきりの状態になってたらしいねんけど、地震の時、アイツが入院してた病院、全壊してもうて……助からんかったって」
そんなアホな……。あの時、確かに僕は根岸の体にも触れたのに……。アイツが死んでたなんて、絶対、有り得へん!
そう思った僕は、その後、色んな人に聞いて調べてみたのですが、やはり、彼は間違いなく、地震の起きた瞬間に死んでいたようなんです。
あの日、僕に会いに来た根岸は、去り際に「ありがとう」と言ってくれましたが、あれは、昔、彼を庇ったことに対するお礼だったのでしょうか?
毎年、1月17日が近づくと、震災時に感じた恐怖感と共に、今にも闇に消え入りそうなアイツの姿を思い出します。
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