釣り番組のディレクターです。
もう10年以上は続けていて、365日、日本中の海や川を巡る毎日です。
こんなことを言うと失礼かもしれませんが、釣り番組を作るのは楽です。
その回の「釣りスポット」と「目的の魚」だけ決めて、後はそこでプロ釣り師や芸能人に釣りをして貰うだけですから。
編集も楽チンで、普通のバラエティならどこを使ってどこを切るべきか……という取捨選択に悩んだりするのですが、釣り番組は“釣れた瞬間”という明確な使い所があるので編集に迷いも出ません。
その分ルーティンな仕事になってしまい飽きがくることもあるのですが……。
それと普通のバラエティでは収録の出来が悪いと“お蔵入り”になる事もあるみたいですが、釣り番組ではそれも殆どありません。
たとえ釣果がゼロでも……それはそれでまぁOK的なゆるい部分もありますので。
しかし、10年以上やっている私の釣り番組で、たったひとつだけお蔵入りになった回があります。
その日は、日本海で真鯛を釣るという内容でプロ釣り師とアイドルがゲストでした。いつものように港でオープニングトークをして沖へと出発した我々。
そのアイドルは人生で初めての釣りということで、プロに指導を受けながら釣りを楽しんでいました。可愛いアイドルに手とり足とり教えるプロ釣り師もえらく上機嫌です。
釣果も絶好調でオンエアーで使う映像も充分すぎるほどでした。やがて日も暮れて、そろそろ収録OKのサインを出そうかと思っていた丁度その時でした。
さっきまで楽しそうに釣りをしていたアイドルが、急に血相を変え、無言で船のフチを指さしたのです。
その指先はかすかに震えていました。アイドルが指さしていたのは、船の下、海面に接しているフチ部分。
どう見ても人間の手が、海面から船にしがみついていたのです。青白さを通り越し薄紫に変色していて、まるで死者の手でした。
一瞬にして船上はパニックになりました。私はすぐに収録をストップさせ、まだ生きているならどうにか救助しようと、長い綱をその手に伸ばしました。
「大丈夫ですか! つかまってください!」
何度か手にトントンと綱を当ててみても反応はありません。船をつかんだまま死後硬直している状態なのか……? 脳裏にそんな予測がよぎった瞬間でした。
ピクリとも動かなかった手が動き、綱を力強くグッとつかんだのです。すぐにスタッフ一丸となって必死にその綱を引き上げました。そして……。
ザバァンとまるで打ち上げられたクジラのように船上に姿を現したのは、手から下が真っ黒に焼け焦げた死体でした。
すでにひどく腐敗していて、鼻が曲がるほどの異臭もしました。
男性か女性かもわからないほど変わり果てたその姿は、誰がどう見ても死後かなり経っている事は明らかでした。
後日になって、その死体は1ヵ月前から行方不明になっていた女子高生のものだとわかりました。ガソリンをかけて焼かれ、海に捨てられたんだそうです。
殺された恨み、怨念が、死体を動かしたとでも言うのでしょうか──。
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こんなことを言うと失礼かもしれませんが、釣り番組を作るのは楽です。
その回の「釣りスポット」と「目的の魚」だけ決めて、後はそこでプロ釣り師や芸能人に釣りをして貰うだけですから。
編集も楽チンで、普通のバラエティならどこを使ってどこを切るべきか……という取捨選択に悩んだりするのですが、釣り番組は“釣れた瞬間”という明確な使い所があるので編集に迷いも出ません。
その分ルーティンな仕事になってしまい飽きがくることもあるのですが……。
それと普通のバラエティでは収録の出来が悪いと“お蔵入り”になる事もあるみたいですが、釣り番組ではそれも殆どありません。
たとえ釣果がゼロでも……それはそれでまぁOK的なゆるい部分もありますので。
しかし、10年以上やっている私の釣り番組で、たったひとつだけお蔵入りになった回があります。
その日は、日本海で真鯛を釣るという内容でプロ釣り師とアイドルがゲストでした。いつものように港でオープニングトークをして沖へと出発した我々。
そのアイドルは人生で初めての釣りということで、プロに指導を受けながら釣りを楽しんでいました。可愛いアイドルに手とり足とり教えるプロ釣り師もえらく上機嫌です。
釣果も絶好調でオンエアーで使う映像も充分すぎるほどでした。やがて日も暮れて、そろそろ収録OKのサインを出そうかと思っていた丁度その時でした。
さっきまで楽しそうに釣りをしていたアイドルが、急に血相を変え、無言で船のフチを指さしたのです。
その指先はかすかに震えていました。アイドルが指さしていたのは、船の下、海面に接しているフチ部分。
どう見ても人間の手が、海面から船にしがみついていたのです。青白さを通り越し薄紫に変色していて、まるで死者の手でした。
一瞬にして船上はパニックになりました。私はすぐに収録をストップさせ、まだ生きているならどうにか救助しようと、長い綱をその手に伸ばしました。
「大丈夫ですか! つかまってください!」
何度か手にトントンと綱を当ててみても反応はありません。船をつかんだまま死後硬直している状態なのか……? 脳裏にそんな予測がよぎった瞬間でした。
ピクリとも動かなかった手が動き、綱を力強くグッとつかんだのです。すぐにスタッフ一丸となって必死にその綱を引き上げました。そして……。
ザバァンとまるで打ち上げられたクジラのように船上に姿を現したのは、手から下が真っ黒に焼け焦げた死体でした。
すでにひどく腐敗していて、鼻が曲がるほどの異臭もしました。
男性か女性かもわからないほど変わり果てたその姿は、誰がどう見ても死後かなり経っている事は明らかでした。
後日になって、その死体は1ヵ月前から行方不明になっていた女子高生のものだとわかりました。ガソリンをかけて焼かれ、海に捨てられたんだそうです。
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