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ピン芸日本一を決める“○─1グランプリ”では、去年、決勝戦までは進めなかったものの、準決勝まで残って奮闘した。

見た目はあまりパッとしないけど、最近はファンの子も増え始め「一緒に写真撮って下さい」と言われることも多くなった。

そんな僕は、自分で言うのもなんだが、最近ちょっとキテるんじゃないかと思う。って、こんな強気な発言をしている僕だが、初めて1人で舞台に立った時は、緊張しすぎて口から心臓どころか体内の臓器が全部飛び出してしまうのではないかと思ったぐらいだ。

そもそも僕は、子供の頃からお笑い好きではあったが、1人で舞台に立って人を笑わせるほどの根性の持ち主ではなかった。

お笑いはやりたいけど、誰かとコンビ組んでじゃないとキツいよなぁ……と思っていた僕は、高3の時、クラスメートのSに「お笑い、やらへんか?」と声をかけた。

Sはその時すでに大学に受かっていて、学業の傍ら、遊び感覚でやる程度ならOKだと言うので、僕は「全然それでもいいから」とお願いした。そう、現在はピンで活躍している僕も、実は昔、相方がいたのだ。

その昔、僕がSを相方に指名したのは、Sが死ぬほど面白かったから……ではない。

Sが死ぬほど格好良かったからだ。実際、芸人のコンビを見てみると、片方がメチャクチャ男前で、片方は普通もしくは不細工というケースが多いだろう。

芸人にとって面白さはもちろん、見た目の華も大切なのだ。そこで、自分の周りで一等男前のSを相方に選び、ネタは僕が一生懸命考えればいい……そう思っていた。

事実、Sは見た目が良いだけで、お笑いのセンスはお世辞にも良いとは言えない男だった。しかし、そんなヤツでも舞台に立てば女の子たちがキャアキャア騒ぎ、Sは着実にファンを増やしていった。

なんだかんだ言って、男も女も結局は見た目が一番なのだ。高校時代からモテモテだったSは、芸人になって更にモテるようになり、調子に乗って遊びまくった。

街でナンパをすれば女の子はすぐに付いてくるし、黙っていても向こうから「Sさんですよね?」と声をかけられることも多々。

僕は、後々、厄介なことが起こったら嫌なので「ほどほどにしとけよ」と軽くたしなめはしたが、それほど神経質になって怒ったりはしなかった。まあ、何かあっても自分で対処できるだろうと思っていたから。

そんなある日──。Sが1人暮らしをしているアパートの部屋に帰って来ると、なんだか様子のおかしい時があると言いだした。

別に何かが盗られているとかいうわけではないのだが、カーテンの形やゴミ箱の位置などが微妙に変わっている気がするのだと。

しかも、最近、誰かにつけられてるような気もして、ちょっと気味が悪いんだと、僕に打ち明けてきた。

「もしかして、ストーカーかな?」

「かもな……」

「かもな……って、お前、他人事みたいに」

「だって他人事やもん」

「なんやねん! お前、冷たいなぁ。相方の危機やぞ! 何か良い案ないんか? 考えてくれや!」

急なオファーだったが、僕はネタを考える時と同様、一生懸命考えた。

「ほな、お前が出て行ってる間、ビデオカメラで部屋を撮影しといたら? もしストーカーが部屋に侵入してるとこが撮れたら、それ持って警察行けばええやん。警察は何か被害が無いと動いてくれへんけど、不法侵入の証拠見せたら、さすがに動いてくれるやろ?」


僕の名案を聞いて「お前、頭ええやんけ!」

と感動したSは、早速、次の日、部屋全体が写せる位置に、見えないようにビデオカメラを設置し、録画ボタンを押してから家を出た。

そして、その日の夜、帰宅したSは録画ボタンを止めて映像をチェックし始めた。

録画時間を見ると、6時間強。その間に本当に誰かが侵入してくるのだろうか? ビデオを再生してからしばらくは何の変化も起こらなかったため、Sは早送りボタンを押した。1時間、2時間、3時間、4時間……と、どんどん早送り再生されていくビデオ。

「なんや……何も起これへんな。しょうもな……」

Sが独り言を吐いた瞬間のことだった。画面に人らしきものが映ったのだ。

「……!!!」

声にならないほどビビったSだったが、その後、すぐに電話を手に取った。

プルルルルルル……プルルルルルル……

「おい! やばいって! 映ってる映ってる! ストーカー映ってるわ!!!」

電話を受けた僕が「もしもし」も言わないうちから、Sは興奮気味に喋りだした。

「顔はよく見えんけど髪の長い女でさぁ……うわうわ、何すんねん、こいつ! う~わゴミ箱漁ってるよぉ……」

1人、実況中継をするS。

「ちょちょちょ、やめろって! 今度は俺の服の匂い嗅いでる……うわ~、キモ! キモいって!」

僕はSの中継を聞きながら、本当に気持ち悪いなと思った。

その女がもし仮にすごい美人であったとしても、人の家に勝手に上り込んでゴミ箱を漁ったり服の匂いを嗅いだりするのは、どう考えても変態だ。

そんな変態に付きまとわれるSは気の毒だが、もしかしたら、その変態女に気を持たせるような行為をしたのではないか? 

モテ男というやつは、自分ではその気は無くても女の子に誤解されるようなことを平気でやってのけるからなぁ。

そう思った僕はSに聞いてみた。

「その女の正体、ホンマにわからんの? お前が遊んで捨てた子ちゃうん?」

すると、Sは平然とした声で答えた。

「さあ、どうやろなぁ。そんなん、いちいち覚えてへんし……」

この返答を聞いた時、こいつはいつか絶対、女に刺されると確信したが、とりあえず今回は不法侵入の証拠も押さえたし、これで警察も動いてくれるだろうと一安心した。

……が、そこからSが怯えるように言った。

「うっわ……ちょっと待って。女、押し入れの中に入っていきよってんけど……なかなか出てけーへん……」

僕とSの間に長めの沈黙が続く。
そして、Sが「あっ」と声を上げた。僕が「どうした?」と聞くと、ビデオの画面に、外から帰宅したSの姿が映ったと言う。

それはまさに数十分前の自分……つまり、家に帰って来てビデオの録画ボタンを止めたS自身の姿だった。

ということは……と、僕の背筋に寒気が走った。その瞬間、電話の向こうで「わぁ~!」という叫び声が聞こえた。

そこから何度Sの名を呼んでも返事が無いので、僕は慌ててSの家まで飛んで行った。すると、そこには、顔を押さえながら、うずくまっているSの姿があった。

「俺、もう、あかんわ……」

見ると、Sの顔には、目の下あたりから口元にかけてザックリと刃物で切られた形跡があり、その傷は一生消えそうになかった。

切りつけたのは当然さっきのストーカー女で、それが恨みによるものなのかはわからないが、そんなことはもうどうでもいいとSは言った。

秀でた芸も無く、外見だけがウリのSにとって一番の商売道具を傷つけられては、この先やっていけない……誰よりもそのことをわかっていたあいつは芸人を辞めた。

かくして、僕はピン芸人になったのだ。
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