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トーク番組の打ち合わせで、イケメン俳優N君と一緒になった。

その番組は毎回1人の旬の芸能人をゲストに招き、過去の思い出や近況などを話しながら人物像を掘り下げていく番組で、次回のゲストがN君だった。

都内の少しオシャレな喫茶店で2人。番組で使えるようなトークを見つけるべく、私は彼にたくさん質問を投げかけていた。

「俳優になったきっかけは?」、
「仕事で喜びを感じる瞬間は?」、
などなど……。

N君は初対面の私にも気さくに何でも話してくれて、打ち合わせは盛りあがっていた。しかし──。

「じゃあ次は学生時代の思い出話を聞きたいなあ。例えば修学旅行の思い出とか」

私がそう言った瞬間、さっきまで笑顔だったN君の表情が一気に曇った。しまった……と思った。

もしかして学生時代はイジメられていたのか?と不安になり質問を変えようとすると、N君はうつむきながら1つのエピソードを話し始めた。

それが決してテレビでは流せない話だったので、ここに書こうと思う。

それはN君が中学校の修学旅行で京都に行った時の話だった──。彼は別にイジメられているわけでなく、むしろクラスではリーダー的存在で友達は多かったという。

みんなでお寺を回ったり、自由時間にはクラスの仲間と街に繰り出してゲームセンターで遊んだり買い物をしたり、N君は修学旅行を心から楽しんでいた。

宿泊していたのは、5階建ての大きい旅館。N君は大部屋で、同じクラスの男8人と一緒だった。

普通は8人も居れば、仲の良いヤツ、そうでもないヤツと出てくるものだが、その部屋は偶然にもみんながみんな仲が良いという、まさに最高の部屋割りだったそうだ。

京都に修学旅行に行った人なら分かると思うが、10代の学生にとっては昼間のお寺巡りなんかより、夜の部屋で仲間と過ごす一時の方が楽しかったりするもの。

N君達も部屋で枕投げをしたり、先生が見回りに来たら寝たふりをしたり、「お前の好きな女子、誰なのか教えろよ」なんてベタなトークをしたり……楽しすぎる夜を過ごしていた。

さんざん騒ぎ疲れて深夜0時をまわった頃、そろそろ寝ようという事になり、みんな布団に入り電気を消した。

それでもまだみんなと話したい遊びたいと思ったN君が
「なぁ、しりとりしようぜ」

と持ちかけると、みんなも思いは一緒だったようですぐにしりとりが始まったという。

布団が並んだ順に言葉は進んでいき、グルグルと何周もしながら10分が経った頃だった。

「ポか〜。う〜ん。ポルトガル」

「……………」

次の順番のタカシ君の返答がない。

「おい! タカシお前の番だぞ。ル、だよ」

「……………」

「寝たの? おーい。タカシ」

何度呼びかけても返事が無いタカシ君の体を、隣の布団の友達がゆすろうと手を伸ばした。

「タカシがいねえよ」

「うそ? マジで?」

N君が飛び起き電気を点けると、布団に寝ころがっているはずのタカシ君の姿が消えていた。さっきの番まではしりとりに答えていたのに。

そしてトイレの灯りもついていない。というか、トイレに行ったならドアの開く音や足音がするはず。

「え? どこ行ったのマジで」

全員で部屋中を探しまわっても、何処にもタカシ君はいなかった。

みんなで部屋の外を探しに行こうとすると、1階の部屋にいる担任の先生がN君たちのいる5階の部屋に青白い形相で飛び込んできた。

かなり急いで走ったきたようで、ゼイ、ゼイと肩で息をしていた。

「タカシはこの部屋にいたか?いま何してたんだ?お前ら、何も分かってないのか?」

矢継ぎ早に怒鳴るように質問をしてくる先生。

「どうしたんですか?何があったんですか?」

N君が不思議そうに聞くと、先生は一呼吸おいて皆の目を見つめながらこう言った。

「タカシが飛び降りた。多分この部屋から」

すぐにN君達みんなが窓に駆け寄り下を見ると、旅館の駐車場にタカシ君が横たわっていた。頭から流れる大量の血は、現在進行形でその面積を広げていた。

N君も、他のみんなも、あまりのショックに一言も言葉が出なかったという。タカシ君は皆でしりとりをしている間の、順番待ちのわずかな時間に窓から飛び降りていた。

タカシ君の布団は窓際だった。ずっと窓は開けっぱなしだった。だから、足音も窓を開ける音もしなかったのだ。

さっきまで一緒に楽しく遊んでいたタカシが、突然自殺するなんて──。N君は何がなんだか分からなかった。その理由が知りたかった。

後日、警察の調べでタカシ君の携帯電話の未送信メールBOXに1通のメールが保存されていたのが見つかった。

タイトルは「遺書」。

そこには、友達や学校には秘密にしていたタカシ君の恐ろしい家庭環境が綴られていた。それは義理の父親からの長年に亘る酷い虐待だった。

思い返せばタカシは旅館で一度もみんなとお風呂に入らなかった。それはきっと体の傷を隠すためだった……とN君はその時気づいたという。

そして最後の一文はこう締められていた。

──親元を離れられる修学旅行を最後のイイ思い出にして死のうと思います。

○月×日 タカシ  PS. みんな、しりとりの途中でごめん──。

「うん……多分、予め遺書メールは用意してあったんだと思うんですけど、しりとりをしながら俺たちにPSを書き加えてたんですアイツ。
その気持ちを思うと……」

このエピソードを話し終わったN君は、肩をふるわせ泣いていた。
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