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今のテレビ界、いじめを助長する内容のものは相応しくない。

例えば、クイズを間違えたらとんでもない罰ゲームを受けなきゃいけないとか、バラエティ番組でお笑い芸人が思いきり頭をシバかれるとか……。

とにかく暴力を連想させるものは放送前の審査の段階で弾かれてしまう。

しかし、テレビづくりに必要以上の制約を加えると、昔のようにやんちゃで尖った面白い内容の企画ができなくなるというのもまた然り。

だからスタッフの中にはこんなことを漏らす人もいる。

「これぐらいじゃいじめになんか繋がらねぇよ。だいたいいじめってのは、いじめる方より、いじめられる側が悪いんだよ」

業界ではよくある愚痴だ。ただし、僕は一度も言ったことはないし、そんなふうには決して思わない。

小学生のとき、僕は友達の男の子をいじめていた。彼はひどい貧乏だった。住居は板づくりのボロ家で、着ている服はいつもドロだらけ。

体は何も食べてないんじゃないかというほど痩せ細り、まるで辺境の地の怪しい民族たちが持っている魔除けの人形みたいだった。僕が彼をいじめたきっかけは、彼独特の愛想笑いにあった。

こづかれても、家の貧乏をバカにされても、彼は目を三日月のように細めて笑い、いつもへらへらしていた。幼いころからガキ大将だった僕はそれが気に入らなかった。

バカにされてる気がしたのか、その笑顔のどこかに薄気味悪さを感じていたのか、とにかくあのへらへら顔が大嫌いだった。

自然、いじめの度合いは日に日にエスカレートし、僕は人目を盗んでは彼の背中やお腹を蹴っていた。

そんな彼と再会したのは、二年前の冬。正月、東京から帰省した僕は、故郷の町並みをぶらぶら歩いていた。

夕焼けに染まった河川敷は学生時代の自転車通学を甦らせ、とても懐かしかった。

すると、道の向こうから歩いてくる一人の男がいた。僕は一目でわかった。彼だ。彼は、大人になった今はどこかの工場に勤めているのか、油汚れの目立つ作業服姿で、犬を連れ、こちらに向かいとぼとぼ歩いてきた。

僕は声をかけようか迷った。過去に犯した罪があるだけに気軽に「よっ」とはいけない。

しかしこのタイミングを逃せば、もしかしたら彼とはもう一生会えないかもしれない。どうしよう。いじめのことを謝るなら今しかないと思うけど……。

しかし、そんな悠長な考えは彼との距離がつまり、その姿形がはっきり見えはじめると一気に消し飛んだ。その理由は、彼が連れてる犬にあった。

そいつは見ててかわいそうになるほどガリガリで、背骨の形が露わに浮き出ていた。どこかの足をかばっているのかひょこひょこ歩き、右へ左へ足どりはおぼつかない。

片目が潰れ、毛はほぼ抜け落ち、腹のあたりに血の塊のようなどす黒い傷痕がある。彼がぐいと邪険にリードを引っ張ると、なんの抵抗も見せずすごすごと従った。

僕は背筋がぞっとした。
その犬は、まるで彼が今まで溜めこんだ怒りのすべてを一身に受けているような気がしたから。

あの愛想笑いでごまかしてきたツケのすべてが、このおぞましい虐待に出ている……そう直感した。

さらに彼がこちらへ一歩、二歩、と近づいてくる。すれ違った。

僕は目を伏せ、無言のままやりすごした。そのときだ。通りすぎた彼が、僕の背中で優しくこう言うのが聞こえた。

「おいで、ケン○○」

心臓が跳ね上がった。

ケン○○――
僕の名前だった。
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