僕はラジオのハガキ職人から放送作家になった人間です。ハガキ職人とは、ラジオのコーナーなどにハガキをたくさん投稿する人の事です。
自慢ではないですが、僕の投稿は読まれる事が多く、一部の番組MCやリスナーの間ではちょっとした有名人でした。これは、僕がバリバリのハガキ職人だった高校時代の奇妙な体験。
当時、高校2年生だった僕は「他のハガキ職人に負けたくない」という一心で一日中ハガキばかり書いていました。授業中にも書いていて先生からゲンコツをくらったこともあるほどです。
そんな高2の夏、父親の仕事の都合で家を引っ越す事になってしまいました。学校に居てもハガキばかり書いていてあまり友達もいなかった僕にとって、別に引っ越しくらい何てことない事でした。
ひとつだけ気がかりだった事といえば引っ越し先にラジオの電波が入るか入らないかって事だけでした。妹は友達が多かったので最後まで「イヤだ!」と泣いていましたが……。
引っ越し当日、新しい家に着いた僕は何より先にラジオの電波を確認しました。全ての部屋を試したところ、二階はちゃんと電波が入るのですが一階は電波が入ったり入らなかったりと微妙な感じだと分かりました。
僕は両親にすぐ、「二階の部屋がいい!」と伝え、見事希望通りの部屋をゲットしました。
という事で、二階にある2つの部屋は僕と妹。一階にあるリビング以外の部屋は両親の寝室となりました。
引っ越し作業も一段落。みんなでお蕎麦を食べた後、僕はそそくさと二階に上がり、新しい自分の部屋でさっそくハガキを書き始めました。
すると……
<コン、コン、コン>
僕の部屋をノックする音。でもそれはドアからではなくカーテンの奥から聞こえました。
「え? 誰? てか窓をノックって……。しかもここ二階だし……」
おそるおそるカーテンを開けると、隣の家のオバサンがホウキで僕の部屋の窓をノックしていました。
あまりの厚化粧だったので、一瞬バケモノに見えてビクッとしてしまいましたが、「幽霊とかじゃなくて良かった」と安心して窓を開けました。
「私、隣に住んでる酒井って言うの。あんた今日引っ越してきたんでしょ? よろしくね」
ニコっと笑った口元には長い歯茎がツヤツヤ輝いていまいした。よく考えてみれば、二階の窓から挨拶するなんて非常識な話です。
少し気持ち悪くなった僕は、
「あっ、はい。よろしくお願いします」
とすぐに窓を閉めました。
それから毎晩、オバサンは窓をホウキでノックしては僕に話しかけてきました。
「部活は何してるの?」
「今日の夕食は何だったの?」
「彼女は出来たの?」
僕はついに気持ち悪くなり、家族に相談しました。そこで妹に部屋の交換をお願いしてみたのですが、「ヤダよ気持ち悪い」と断られ、一階にある両親の寝室と部屋を交換して貰える事になりました。
ラジオの入りが悪くなるのは嫌でしたが……それ以上にオバサンが嫌だったのです。
親が元・僕の部屋を寝室にしてから、オバサンは一切ノックをしなくなりました。
「誰でもいいって訳じゃないんだ……」僕はそれが逆に怖くもありました。
それから三カ月が経ち、「そろそろ大丈夫だろう」と思った僕はまた元の二階の部屋に戻らせて貰う事にしました。
とはいえまだ怖かったので、カーテンも雨戸も常に閉めっぱなしにして、家具も静かに移動させ、僕がこの部屋に戻った事をオバサンに悟られないようにしました。
そしてその夜、二階の部屋で快調に入るラジオをイヤホンで聞きながらハガキを書いていると……
<コン、コン、コン>
全身に鳥肌が立つのをハッキリと感じました。
「嘘だろ……なんで分かるんだよ」
布団を被って声を潜め、僕は徹底的に無視を貫いていました。
<ドン! ドンドン! ドンドンドン!>
ノックの音は回数を追うごとに大きく、激しくなっていきました。
「このままだと窓が割れちゃうよ……」
そう思った瞬間、ノックの音は止みました。そして恐る恐るカーテンの隙間からオバサンの部屋を覗くと、心臓が止まるかと思いました。
オバサンが消火器を持ちあげ、僕の部屋の窓に向けて振りかぶっていたのです。慌ててカーテンと窓を開け、「オバサンひさしぶり!」と叫びました。
するとオバサンは消火器を置き、歯茎を剥き出して「おかえり」と笑いました。
それを家族に伝えた3日後、また引っ越す事になりました。
あれから10年以上経っている今でも、トイレでノックをされるとあのオバサンがいる気がして怖くなります。
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自慢ではないですが、僕の投稿は読まれる事が多く、一部の番組MCやリスナーの間ではちょっとした有名人でした。これは、僕がバリバリのハガキ職人だった高校時代の奇妙な体験。
当時、高校2年生だった僕は「他のハガキ職人に負けたくない」という一心で一日中ハガキばかり書いていました。授業中にも書いていて先生からゲンコツをくらったこともあるほどです。
そんな高2の夏、父親の仕事の都合で家を引っ越す事になってしまいました。学校に居てもハガキばかり書いていてあまり友達もいなかった僕にとって、別に引っ越しくらい何てことない事でした。
ひとつだけ気がかりだった事といえば引っ越し先にラジオの電波が入るか入らないかって事だけでした。妹は友達が多かったので最後まで「イヤだ!」と泣いていましたが……。
引っ越し当日、新しい家に着いた僕は何より先にラジオの電波を確認しました。全ての部屋を試したところ、二階はちゃんと電波が入るのですが一階は電波が入ったり入らなかったりと微妙な感じだと分かりました。
僕は両親にすぐ、「二階の部屋がいい!」と伝え、見事希望通りの部屋をゲットしました。
という事で、二階にある2つの部屋は僕と妹。一階にあるリビング以外の部屋は両親の寝室となりました。
引っ越し作業も一段落。みんなでお蕎麦を食べた後、僕はそそくさと二階に上がり、新しい自分の部屋でさっそくハガキを書き始めました。
すると……
<コン、コン、コン>
僕の部屋をノックする音。でもそれはドアからではなくカーテンの奥から聞こえました。
「え? 誰? てか窓をノックって……。しかもここ二階だし……」
おそるおそるカーテンを開けると、隣の家のオバサンがホウキで僕の部屋の窓をノックしていました。
あまりの厚化粧だったので、一瞬バケモノに見えてビクッとしてしまいましたが、「幽霊とかじゃなくて良かった」と安心して窓を開けました。
「私、隣に住んでる酒井って言うの。あんた今日引っ越してきたんでしょ? よろしくね」
ニコっと笑った口元には長い歯茎がツヤツヤ輝いていまいした。よく考えてみれば、二階の窓から挨拶するなんて非常識な話です。
少し気持ち悪くなった僕は、
「あっ、はい。よろしくお願いします」
とすぐに窓を閉めました。
それから毎晩、オバサンは窓をホウキでノックしては僕に話しかけてきました。
「部活は何してるの?」
「今日の夕食は何だったの?」
「彼女は出来たの?」
僕はついに気持ち悪くなり、家族に相談しました。そこで妹に部屋の交換をお願いしてみたのですが、「ヤダよ気持ち悪い」と断られ、一階にある両親の寝室と部屋を交換して貰える事になりました。
ラジオの入りが悪くなるのは嫌でしたが……それ以上にオバサンが嫌だったのです。
親が元・僕の部屋を寝室にしてから、オバサンは一切ノックをしなくなりました。
「誰でもいいって訳じゃないんだ……」僕はそれが逆に怖くもありました。
それから三カ月が経ち、「そろそろ大丈夫だろう」と思った僕はまた元の二階の部屋に戻らせて貰う事にしました。
とはいえまだ怖かったので、カーテンも雨戸も常に閉めっぱなしにして、家具も静かに移動させ、僕がこの部屋に戻った事をオバサンに悟られないようにしました。
そしてその夜、二階の部屋で快調に入るラジオをイヤホンで聞きながらハガキを書いていると……
<コン、コン、コン>
全身に鳥肌が立つのをハッキリと感じました。
「嘘だろ……なんで分かるんだよ」
布団を被って声を潜め、僕は徹底的に無視を貫いていました。
<ドン! ドンドン! ドンドンドン!>
ノックの音は回数を追うごとに大きく、激しくなっていきました。
「このままだと窓が割れちゃうよ……」
そう思った瞬間、ノックの音は止みました。そして恐る恐るカーテンの隙間からオバサンの部屋を覗くと、心臓が止まるかと思いました。
オバサンが消火器を持ちあげ、僕の部屋の窓に向けて振りかぶっていたのです。慌ててカーテンと窓を開け、「オバサンひさしぶり!」と叫びました。
するとオバサンは消火器を置き、歯茎を剥き出して「おかえり」と笑いました。
それを家族に伝えた3日後、また引っ越す事になりました。
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