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劇場というのは昔から「出る」とよくいわれている。

確かに劇場を頻繁に使う劇団員や若手芸人たちの体験談は後を絶たない。この話はまだテレビに出る事もほとんどない若手芸人たち数人が体験した話。

芸人の目標といえば、やっぱりテレビに出る事。そして、いずれ自分の冠番組を持ちたいと誰もが思っている。

売れない若手芸人コンビAもまたそんな事を思いながら日々ネタ作りに励んでいる。コンビAたちが、自分たちのネタを表現できる場所といえば月に1度のお笑いライブだけだった。

このお笑いライブはお客さんが100人も入ればパンパンになるような小さな劇場で、会場設営やチケットのもぎりなど後輩芸人たちが順番に手伝って行うような手作りのライブだった。

1カ月かけて作った新しいネタを、一生懸命チケットを手売りして集めた40人程のお客さんに観てもらう。そんな月に1度のライブが彼らにはとても大事だった。

「新ネタの出来はどうだったんだろう?」「ちゃんとお客さん笑ってくれたのかな?」などと若手芸人にとってそのライブが自分たちの評価を知る全てだった。

こういうライブには決まって開演前にお客さんたちにアンケートが配られる。このアンケートには「今日のライブの感想は?」「今日の出演者で誰がおもしろかった?」などの質問項目があり終演後に回収される。

これを芸人たちは隅々まで読んで次のネタ作りの参考にしたりもするのである。

その日も毎月恒例のライブが行われた。今回はコンビAたちを含む4組の芸人が出演するライブだった。4組のコンビがそれぞれの持ちネタの漫才やコントを5分ずつ順番に披露していくライブだ。

そして最後に「集団コント」というものがある。「集団コント」とは他のコンビの芸人たちと一緒にコントを行うもので、いつもの相方以外の芸人ともからむので大変勉強になる企画である。

この日、コンビAが一緒に集団コントを行ったのは先輩コンビBさんたちだった。この日の為に2週間前から4人で集まって一緒に稽古をしてきた。

そして、集団コントの時間がきた。コンビAたちの集団コントは「学校」の設定で、舞台上には教卓と机・イスが3セット置かれていた。

授業中に生徒たちが次々とボケていき先生がキレるといったコントだった。練習の成果も出て予想以上にウケて大爆笑だった。4人は大満足でライブを終えた。

4人は相当うれしかったのか、遅くまで楽屋に残り、今日のライブの感想を口ぐちに言い合っていた。

しばらくしてお客さんからのアンケートをまだ見てなかった事に気づき、20枚ほどあるアンケートを回し読みしだした。

アンケートはやはり

「面白かった」

「またやってほしい」

など絶賛の嵐だった。
それで、また盛り上がる4人。

「今日は美味しいお酒が飲めそうだな」なんて話しながら読んでいたら、先輩コンビBのツッコミの人が、急に黙り込んだ。

「どうしたんですか?」と聞くと、1枚のアンケートをみんなの前に差し出した。そこには「集団コント面白かったです」と感想が書かれていた。

みんなは「なんだよ。普通にいい感想じゃん。なんでそんな曇った顔してんだよ。」と言った。しかしその原因は、その前の文章にあった。

よく見るとそこには「5人の集団コント面白かったです」と書かれていたのだ。

他のアンケートを慌てて見てみると他にも、

「奥で1人ボーッとしてた人がシュールで面白かった」

「あの人は台詞ないんですか~?」

などのアンケートが4枚ほどあった。

後々考えてみたら、確かに4人全員が舞台からハケた後にも笑いが起きていたらしい。
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