私の女友達に元芸能人がいます。といっても、売れる前に引退したので、「元」というのも微妙なのですが。
放送作家をしている私とは高校時代からの付き合いで、名前はカナ(仮名)といいます。カナは数年前に不幸な事件にあって、足が不自由で車椅子生活です。
そして、その事件のせいで、芸能界を引退せざるを得なくなったんです。カナからも許しを得たので、コトの全てをここに書きます。
ある朝、来訪者を告げるインターホンの音で目が覚めたカナ。寝ぼけ眼でモニターを見ると、そこには銀縁メガネをかけて髪を七三にきっちりと分けたスーツ姿の中年男が佇んでいました。
新聞の勧誘員でもなさそうだし誰だろう、と不審に思いながら、「どちらさまですか?」とモニター越しに問いかけました。
「厚生労働省のほうから来ました」男はそう答えました。
「厚生労働省の人がどのようなご用ですか?」
「私、厚生労働省のほうから来たんですが。あなた、国民年金に加入していませんね?」
男は詰問口調でそう言いました。確かにカナは国民年金に加入していませんでした。芸能人とはいえ、まだ仕事がそれほどないため、年金に加入するような金銭的な余裕がなかったのです。
このマンションだって事務所が借りているもの。カナはその場をどうやり過ごそうかと思案していると、男はさらに畳みかけてきました。
「年金に加入するのは国民の義務ですよ。早くここを開けなさい」
何かおかしい。この人、本当に厚生労働省の人なの?男の態度に疑問を持ったカナは男に身分の確認を求めました。
「いいから。開けて。早く開けろ。僕は厚生労働省のほうから来たんだ。開けろよ」
急変した男の口調に恐怖を感じたカナはモニターのスイッチを切り、無視を決め込みました。それでも、男はインターホンを鳴らし続けます。
約1時間ほど鳴らし続けた後、男は諦めて帰っていきました。そしてその夜です──。仕事の帰宅途中、カナを不幸な事件が襲いました。
何者かにいきなり金属バットで後ろから殴られたのです。命に別条はなかったものの、打ちどころが悪く一生半身不随の身になってしまいました。
退院して自宅マンションに戻ったカナでしたが、今後のことを考えると途方に暮れるばかりです。もちろん、芸能界は引退するしかありません。
そして、まもなくこのマンションからも出て行かなければなりません。こんな体で、これからどうやって生活していけばいいの……?将来のことを考えると不安は募るばかりです。
すると、そのときインターホンが鳴りました。また、あの男でした。
「私、厚生労働省のほうから来たんですが、年金の必要性がわかったでしょうか」
男は嘲笑いながら、そう言ったそうです。
──実は、この事件が起きる三日前。カナはテレビドラマの主役オーディションに合格していました。
もう一人の若手女優と主役の座を最後の最後まで争い、見事勝ち取っていたのです。しかし、半身不随となってしまったカナは降板させられることに……。
結果、前述の最後まで座を争った若手女優が繰り上がりで主役をゲットしたそうです。が、その若手女優の事務所は、バックにヤクザがいる事で有名な某大手事務所―─。
まさか、とは思いますが……。
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放送作家をしている私とは高校時代からの付き合いで、名前はカナ(仮名)といいます。カナは数年前に不幸な事件にあって、足が不自由で車椅子生活です。
そして、その事件のせいで、芸能界を引退せざるを得なくなったんです。カナからも許しを得たので、コトの全てをここに書きます。
ある朝、来訪者を告げるインターホンの音で目が覚めたカナ。寝ぼけ眼でモニターを見ると、そこには銀縁メガネをかけて髪を七三にきっちりと分けたスーツ姿の中年男が佇んでいました。
新聞の勧誘員でもなさそうだし誰だろう、と不審に思いながら、「どちらさまですか?」とモニター越しに問いかけました。
「厚生労働省のほうから来ました」男はそう答えました。
「厚生労働省の人がどのようなご用ですか?」
「私、厚生労働省のほうから来たんですが。あなた、国民年金に加入していませんね?」
男は詰問口調でそう言いました。確かにカナは国民年金に加入していませんでした。芸能人とはいえ、まだ仕事がそれほどないため、年金に加入するような金銭的な余裕がなかったのです。
このマンションだって事務所が借りているもの。カナはその場をどうやり過ごそうかと思案していると、男はさらに畳みかけてきました。
「年金に加入するのは国民の義務ですよ。早くここを開けなさい」
何かおかしい。この人、本当に厚生労働省の人なの?男の態度に疑問を持ったカナは男に身分の確認を求めました。
「いいから。開けて。早く開けろ。僕は厚生労働省のほうから来たんだ。開けろよ」
急変した男の口調に恐怖を感じたカナはモニターのスイッチを切り、無視を決め込みました。それでも、男はインターホンを鳴らし続けます。
約1時間ほど鳴らし続けた後、男は諦めて帰っていきました。そしてその夜です──。仕事の帰宅途中、カナを不幸な事件が襲いました。
何者かにいきなり金属バットで後ろから殴られたのです。命に別条はなかったものの、打ちどころが悪く一生半身不随の身になってしまいました。
退院して自宅マンションに戻ったカナでしたが、今後のことを考えると途方に暮れるばかりです。もちろん、芸能界は引退するしかありません。
そして、まもなくこのマンションからも出て行かなければなりません。こんな体で、これからどうやって生活していけばいいの……?将来のことを考えると不安は募るばかりです。
すると、そのときインターホンが鳴りました。また、あの男でした。
「私、厚生労働省のほうから来たんですが、年金の必要性がわかったでしょうか」
男は嘲笑いながら、そう言ったそうです。
──実は、この事件が起きる三日前。カナはテレビドラマの主役オーディションに合格していました。
もう一人の若手女優と主役の座を最後の最後まで争い、見事勝ち取っていたのです。しかし、半身不随となってしまったカナは降板させられることに……。
結果、前述の最後まで座を争った若手女優が繰り上がりで主役をゲットしたそうです。が、その若手女優の事務所は、バックにヤクザがいる事で有名な某大手事務所―─。
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