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テレビタレントが地方の一般家庭に飛び込みで泊めさせてもらい、人々とのふれあいと暮らしぶりを映し出す。そんな人気番組がありました。

番組にも色々ありますが、その番組はぶっつけ本番のロケでおなじみでした。突然起こるハプニングの面白さはどんな台本よりも素敵なもの。しかしそれがいい方向ばかりに行くとは限らなかったようです。

中国地方のある県に行った時の事。その回は大物女性演歌歌手が出演していました。

女性歌手は一日中その町を回っていましたが、泊めてくれるお宅が全然見つかりませんでした。暮れて困り果てていた女性歌手は、人通りの少なくなった道でたまたま通りかかったおばあさんに声をかけました。

「この人に断られると番組が成立しない……」そんなスタッフからのプレッシャーを感じていた女性歌手は、必死で泊めてくれとお願いしました。だが、おばあさんはそれ以上に「ダメだ」の一点張り……。

しかし、女性歌手の泣き落としでおばあさんはとうとう泊まる事を許してくれたそうです。おばあさんが言うには、現在はご主人と二人暮らしで、とても古い家に住んでいるとの事。

家に着く直前まで

「本当にうちで大丈夫なの?」

と何度も女性歌手にたしかめてきたそうです。

最初は家が散らかってるからかな、と思っていた女性歌手もあまりのしつこさに、何かあるのか?と疑いはじめました。

そうこうしているうちに、おばあさんの家に着きました。……後で聞いた所によると、撮影のために家に上がらせてもらった瞬間から、何人かのスタッフは言いようの無い息苦しさを感じていたそうです。

おばあさんのお宅は二人暮らしには広すぎる古風な民家でした。たしかに古いと言えば古いですが、味があるとも言えるそんなお宅でした。

女性歌手はさっそく、晩御飯の支度を手伝いはじめました。しばらくすると、その模様を撮影している音声スタッフが何度も撮影を止めました。

ディレクターがイライラして「どうしたんだよ」と聞くと、どこからか大人数が話す声がマイクに入ってしまっているというのです。もちろん撮影中なのでスタッフの誰もが話すはずもありません。

この家で声を出しているのは女性歌手とおばあさんくらいでした。「あとで消せばいいから」とディレクターはスタッフを促して撮影をつづけました。

音声のトラブルがありながらもどうにか料理のシーンの撮影を終え、次におばあさんとご主人と一緒に食事で団らんする様子を撮影することになりました。

ところが、その頃には音声さんのマイクにだけ聞こえていた大人数が話す声が、スタッフの耳にも聞こえるようになっていたそうです。もちろん女性歌手の耳にもそれは聞こえていました。

たまりかねて女性歌手がおばあさんに聞いたところ一言

「だから、 “大丈夫か?” と聞いたんだよ」

とムスッとした様子で答えました。

気味は悪かったのですが、他に泊まる家がない以上、おばあさんを怒らせてもいけないと思いそれ以上は何も聞けませんでした。

その不思議な話し声は、しばしば聞こえてきたままでしたが、とりあえず撮影は続けられ、後は寝るだけとなりました。女性歌手に寝室としてあてがわれた部屋は大変狭く暗い部屋でした。

女性歌手はこの家に来てからずっとナーバスでした。不気味な話し声……、おばあさんの不可解な機嫌の悪さ……。

彼女はいらだっていました。おまけにこんな汚い寝室をあてがわれ、不満が爆発する寸前でした。

が、あとは寝て起きたら終わりだから、とスタッフは懸命に説得し女性歌手をなだめてその部屋に泊まってもらったそうです。なかなか寝付けなかった女性歌手がようやく寝息を立て始めた頃……。

彼女は妙な圧迫感を感じて目を開けました。ふと見ると足元から何かが布団の中へ入り込んできているのです。

その“何か”は彼女のすねを、ひざを、太ももを這い上がってきました。あまりの事に声も上げられず身を固めていると、その何かはお腹の上をはって布団の中から彼女の目の前へ顔を出しました。

……それは真っ白な顔をした子供。正確には子供の霊でした。その霊が女性歌手の布団の中で涙を流して泣いているのです。

どういうわけか声はまったく聞こえなかったそうです。恐怖に目を閉じようと思っても閉じられないままその子供を見ていると、耳元でさっきの大人数が話すような声が聞こえてきました。

「おまえのせいだ……。おまえのせいだ……。おまえのせいだ……。」

女性歌手はそのまま気を失ってしまいました。

意識を失ったまま朝を迎えた女性歌手は起きるなり、「すぐに帰りたいから来てくれ」とスタッフに連絡してきたそうです。

泊めてもらったご家族との別れのシーンはいつもは感慨深い物になるのですが、その撮影はあっさりと終わりました。

女性歌手は逃げるようにロケバスに乗りこみ近くの神社に向かってくれと言ったそうです。

その後、ディレクターがチェックしたVTR素材には大人数の話し声だけでなく、現場では気づかなかったたくさんの霊が映りこんでいました。

かまどの暗闇から、少し空いた木戸の隙間から、天井の梁の脇から恨めしそうにこちらを見つめる子供らしき霊がはっきりと収録されています。

編集でどうにかなるレベルではなかったので、結局その収録テープはお蔵入りになったそうです。

筋書きのないドラマは感動を呼ぶはずなんですが、何か別の“もの”を呼んでしまうこともあるようです。
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