人気劇団のメンバーSさんの下積み時代の奇妙なバイトの話です。
「10日間泊まり込みで30万だよ。こんなおいしいバイトねーよ! お前もやんない?」
ある日、同じ演劇仲間のOさんに治験モニターのバイトに誘われました。治験モニターというのは、開発中の新薬の実験台となって高額報酬がもらえるというバイト。
下積み時代でお金に困っていたSさんが、誘いに乗ったのは当然でした。
(ちなみに、今をときめく売れっ子若手芸人やイケメン俳優の中にも、過去に治験バイトをしていた方は意外と多いです)
某薬品メーカーの治験のために、人里離れた関東某所の貸別荘に集められたバイトはSさんやOさんを含む15名。
企業秘密の漏えいを防ぐために、ここに来ていることを家族にさえ知らせることは許されません。
治験が始まって、何事もなく数日が過ぎていきました。体調もよく快適に過ごしていたSさんでしたが、あることに気づきました。15人いたバイトが12人に減っているのです。
「投与される新薬は15人すべて違うもので、薬によっては数日間のモニタリングで済むものもある。その場合でも、報酬は全額支払われる」
というのがメーカー側の説明でした。
1週間が過ぎ、バイトの数はSさんとOさんを含む5名に。
「早く終わった奴はいいよな~」と、Oさんに話しかけるSさん。
しかし、Sさんの言葉が聞こえなかったかのように、Oさんはうつむいてブツブツと何やらつぶやくだけでした。
翌朝、朝食のために食堂に集まると、Oさんの姿が見えません。
聞けば、モニタリングが終了したので、早朝に帰宅したとのこと。「ひと言ぐらい挨拶していけよなー」と思いながら、Sさんは自室へ戻る途中、Oさんの部屋のドアが少し開いていることに気づきました。
こっそり覗いてみると、防護服に身を包んだ数人の男たちが部屋を消毒しているではありませんか。そこにはOさんの荷物もあります。
「あれ? Oは帰ったんじゃなかったの?」とSさんは不思議に思いながら、Oさんのベッドに目を向けると、布団からロウソクのように白い足が突き出ていました。
しかも、異様だったのは、その足に黒い斑点のようなものがたくさんあったことです。
あれはOの足なのか? だとすると、Oは副作用で死んだのか? 今までいなくなった連中も本当は死んだのではないか──?
さまざまな疑問が脳裏をかけめぐった、その時……。
「どうしました? 何かおかしなことでもありましたか?」
メーカーの担当者がSさんの肩を後ろから叩きました。
「い、いや別に」
Sさんは逃げるように自室に戻ると、慌てて荷造りをして、スタッフの目を盗んで別荘を逃げ出しました。
そしてバイト契約時の自宅住所が知られている事を恐れ、友人の家でしばらく寝泊まりさせて貰うことにしました。
そして2週間後。
もう大丈夫だろう、と久しぶりに自宅へ戻ると、郵便ポストに溢れんばかりの封筒が届いていました。
その殆どは例の薬品メーカーからで
「至急お戻りください」
との催促の手紙。
そして1通、Oの葬儀の案内状も届いていました──。
それから4年経った現在、今でもSさんは密かに副作用の恐怖に怯えています。
友の命を奪った治験で、自分は一体どのような薬を投与されたのだろうか、と──。
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「10日間泊まり込みで30万だよ。こんなおいしいバイトねーよ! お前もやんない?」
ある日、同じ演劇仲間のOさんに治験モニターのバイトに誘われました。治験モニターというのは、開発中の新薬の実験台となって高額報酬がもらえるというバイト。
下積み時代でお金に困っていたSさんが、誘いに乗ったのは当然でした。
(ちなみに、今をときめく売れっ子若手芸人やイケメン俳優の中にも、過去に治験バイトをしていた方は意外と多いです)
某薬品メーカーの治験のために、人里離れた関東某所の貸別荘に集められたバイトはSさんやOさんを含む15名。
企業秘密の漏えいを防ぐために、ここに来ていることを家族にさえ知らせることは許されません。
治験が始まって、何事もなく数日が過ぎていきました。体調もよく快適に過ごしていたSさんでしたが、あることに気づきました。15人いたバイトが12人に減っているのです。
「投与される新薬は15人すべて違うもので、薬によっては数日間のモニタリングで済むものもある。その場合でも、報酬は全額支払われる」
というのがメーカー側の説明でした。
1週間が過ぎ、バイトの数はSさんとOさんを含む5名に。
「早く終わった奴はいいよな~」と、Oさんに話しかけるSさん。
しかし、Sさんの言葉が聞こえなかったかのように、Oさんはうつむいてブツブツと何やらつぶやくだけでした。
翌朝、朝食のために食堂に集まると、Oさんの姿が見えません。
聞けば、モニタリングが終了したので、早朝に帰宅したとのこと。「ひと言ぐらい挨拶していけよなー」と思いながら、Sさんは自室へ戻る途中、Oさんの部屋のドアが少し開いていることに気づきました。
こっそり覗いてみると、防護服に身を包んだ数人の男たちが部屋を消毒しているではありませんか。そこにはOさんの荷物もあります。
「あれ? Oは帰ったんじゃなかったの?」とSさんは不思議に思いながら、Oさんのベッドに目を向けると、布団からロウソクのように白い足が突き出ていました。
しかも、異様だったのは、その足に黒い斑点のようなものがたくさんあったことです。
あれはOの足なのか? だとすると、Oは副作用で死んだのか? 今までいなくなった連中も本当は死んだのではないか──?
さまざまな疑問が脳裏をかけめぐった、その時……。
「どうしました? 何かおかしなことでもありましたか?」
メーカーの担当者がSさんの肩を後ろから叩きました。
「い、いや別に」
Sさんは逃げるように自室に戻ると、慌てて荷造りをして、スタッフの目を盗んで別荘を逃げ出しました。
そしてバイト契約時の自宅住所が知られている事を恐れ、友人の家でしばらく寝泊まりさせて貰うことにしました。
そして2週間後。
もう大丈夫だろう、と久しぶりに自宅へ戻ると、郵便ポストに溢れんばかりの封筒が届いていました。
その殆どは例の薬品メーカーからで
「至急お戻りください」
との催促の手紙。
そして1通、Oの葬儀の案内状も届いていました──。
それから4年経った現在、今でもSさんは密かに副作用の恐怖に怯えています。
友の命を奪った治験で、自分は一体どのような薬を投与されたのだろうか、と──。
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