作家として関わった番組から本を出すことになり、その時に知り合った編集者から聞いた話。
仕事もひと段落つき、居酒屋で二人で打ち上げがてら酒を酌み交わしていた時のこと。彼は突然、僕にヒソヒソ声で話しかけてきた。
「……心霊モノの番組ってやった事あります?」
なんだそんな事、というような質問だった。僕は基本的にはバラエティを担当しているのだが、夏場などたまにひょっこり心霊番組をやることもある。
そんな他愛もないことをこんなにぎやかな居酒屋でこそこそ話さなくてもいいのにと思った。だが、彼は続けて、ヒソヒソ声で聞いてきた。
「なんか、ヤバイことなかったッスか?」
その質問を受けて僕は頭を巡らせた。普通、心霊関係の番組をやっていれば何らかのトラブルに巻き込まれるものなのだが、僕に限ってはそんな事は一切なかった。
「僕はそういうのないですね」
「そうですか……」
ちょっと残念そうな彼の顔を見て悪い気になった。こういう時に心霊バナシの1つでも用意できていれば、盛り上がるのに……。
彼に気づかれないようにちょっとだけ反省していた。すると彼が突然、それまでのヒソヒソ声でなく、元気いっぱいの声でこう言った。
「俺、あるんスよ」
さっきまでのヒソヒソ声はなんだったんだと、呆れながら彼の話を聞いた。
それはこんな話だった……。
今から数年前、トレーディングカードが流行の兆しを見せ始めていたころ。彼はある企画を思いついたのだという。
それは、「心霊写真トレカ」だった。
彼が担当していた雑誌のコーナーに心霊写真を扱う企画があった。そこに送られてきた心霊写真をトレーディングカードにして売り出そうというブッとんだ企画だった。
さらに、その心霊写真に「霊力」「体力」「攻撃力」「怨念パワー」などのパラメーターをつけ、戦わせるというちょっとイッってしまっている内容だった。
今考えてみれば、ずいぶん不謹慎な企画なのだが、折しもトレカブームだったため、「何が当たるかわからない」と彼の上司もその企画を通してしまったのだ。
それ以降、彼はそのトレカの製作のため心霊写真を集めはじめた。その数は膨大な物になり整理がつかないくらいだった。
彼はその心霊写真1枚1枚をチェックし、いい心霊写真を選抜していった。それまでは何も起こらなかったのだという。
いよいよ、心霊写真の選抜も終わり、トレーディングカードのサイズに合わせるためにパソコンに取り込んだ写真のデータをカットしていく作業に入っていた。
その頃から、異変は起きたらしい……。
夜遅くまで続けられる作業。ふと気づくと視線を感じる事が多くなったという。
それも、一人だけでなく複数の人に見られている感覚。こういう事は起きるだろう、と腹をくくってはいたが日増しに不思議な現象は増えていった。
彼が作業を始めると会社のあちこちでラップ音がなりひびく。しかも、昼のにぎやかな社内に響き渡るように「ピシッ」とか「パンッ」となるのである。
女子社員は気味悪がっていたが、彼はその企画をやめなかった。さらに、全面禁煙の社内で突如ゴミ箱から吸殻を捨てたわけでもないのに煙が出てボヤになったことも……。
ちなみにそのゴミ箱からは彼が廃棄した心霊写真が見つかった。他のゴミは焼けていたのに、その写真だけはなぜか無傷で残されていた……。
企画にOKを出した上司からもやめておいたら、とやんわり言われることもあったが“企画を通す”という熱い使命感にかられた彼はそれでもやめなかった。
そんな彼の家でも異変が起き始めていた。彼は生まれてはじめての金縛りにあった。金縛りにあった瞬間目を開いてあたりを見回したが何も出てこない。
ただ、1人暮らしの彼の部屋の中を「ピシッ」「パンッ」とラップ音が響くだけ。「なんだこんなものか」と安心した彼だったが、それから日を追うごとに一晩での金縛り回数が増え、その時間が長くなっていった。
最後には寝てすぐに金縛りにかかり朝までずっとその状態だったことも。霊現象もさることながら、体力的にも精神的にも参った彼は、その企画を途中でボツにしたという。
その後、金縛りがおきなくなるまで1週間ほど神社へお祓いに通った。心霊写真でひと儲けをたくらんだからなのか、それとも心霊写真をデータとは言え切り刻んだり加工したからなのか、彼の身にあまりにも不思議な事が起きてしまったのです。
「でもあの企画、いつか出そうと思ってるんです」
彼はまたヒソヒソ声に戻って話していました。
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仕事もひと段落つき、居酒屋で二人で打ち上げがてら酒を酌み交わしていた時のこと。彼は突然、僕にヒソヒソ声で話しかけてきた。
「……心霊モノの番組ってやった事あります?」
なんだそんな事、というような質問だった。僕は基本的にはバラエティを担当しているのだが、夏場などたまにひょっこり心霊番組をやることもある。
そんな他愛もないことをこんなにぎやかな居酒屋でこそこそ話さなくてもいいのにと思った。だが、彼は続けて、ヒソヒソ声で聞いてきた。
「なんか、ヤバイことなかったッスか?」
その質問を受けて僕は頭を巡らせた。普通、心霊関係の番組をやっていれば何らかのトラブルに巻き込まれるものなのだが、僕に限ってはそんな事は一切なかった。
「僕はそういうのないですね」
「そうですか……」
ちょっと残念そうな彼の顔を見て悪い気になった。こういう時に心霊バナシの1つでも用意できていれば、盛り上がるのに……。
彼に気づかれないようにちょっとだけ反省していた。すると彼が突然、それまでのヒソヒソ声でなく、元気いっぱいの声でこう言った。
「俺、あるんスよ」
さっきまでのヒソヒソ声はなんだったんだと、呆れながら彼の話を聞いた。
それはこんな話だった……。
今から数年前、トレーディングカードが流行の兆しを見せ始めていたころ。彼はある企画を思いついたのだという。
それは、「心霊写真トレカ」だった。
彼が担当していた雑誌のコーナーに心霊写真を扱う企画があった。そこに送られてきた心霊写真をトレーディングカードにして売り出そうというブッとんだ企画だった。
さらに、その心霊写真に「霊力」「体力」「攻撃力」「怨念パワー」などのパラメーターをつけ、戦わせるというちょっとイッってしまっている内容だった。
今考えてみれば、ずいぶん不謹慎な企画なのだが、折しもトレカブームだったため、「何が当たるかわからない」と彼の上司もその企画を通してしまったのだ。
それ以降、彼はそのトレカの製作のため心霊写真を集めはじめた。その数は膨大な物になり整理がつかないくらいだった。
彼はその心霊写真1枚1枚をチェックし、いい心霊写真を選抜していった。それまでは何も起こらなかったのだという。
いよいよ、心霊写真の選抜も終わり、トレーディングカードのサイズに合わせるためにパソコンに取り込んだ写真のデータをカットしていく作業に入っていた。
その頃から、異変は起きたらしい……。
夜遅くまで続けられる作業。ふと気づくと視線を感じる事が多くなったという。
それも、一人だけでなく複数の人に見られている感覚。こういう事は起きるだろう、と腹をくくってはいたが日増しに不思議な現象は増えていった。
彼が作業を始めると会社のあちこちでラップ音がなりひびく。しかも、昼のにぎやかな社内に響き渡るように「ピシッ」とか「パンッ」となるのである。
女子社員は気味悪がっていたが、彼はその企画をやめなかった。さらに、全面禁煙の社内で突如ゴミ箱から吸殻を捨てたわけでもないのに煙が出てボヤになったことも……。
ちなみにそのゴミ箱からは彼が廃棄した心霊写真が見つかった。他のゴミは焼けていたのに、その写真だけはなぜか無傷で残されていた……。
企画にOKを出した上司からもやめておいたら、とやんわり言われることもあったが“企画を通す”という熱い使命感にかられた彼はそれでもやめなかった。
そんな彼の家でも異変が起き始めていた。彼は生まれてはじめての金縛りにあった。金縛りにあった瞬間目を開いてあたりを見回したが何も出てこない。
ただ、1人暮らしの彼の部屋の中を「ピシッ」「パンッ」とラップ音が響くだけ。「なんだこんなものか」と安心した彼だったが、それから日を追うごとに一晩での金縛り回数が増え、その時間が長くなっていった。
最後には寝てすぐに金縛りにかかり朝までずっとその状態だったことも。霊現象もさることながら、体力的にも精神的にも参った彼は、その企画を途中でボツにしたという。
その後、金縛りがおきなくなるまで1週間ほど神社へお祓いに通った。心霊写真でひと儲けをたくらんだからなのか、それとも心霊写真をデータとは言え切り刻んだり加工したからなのか、彼の身にあまりにも不思議な事が起きてしまったのです。
「でもあの企画、いつか出そうと思ってるんです」
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