シトシトと降り続ける雨の中、1人の男がフラフラと歩いている。
男はここ数日、何も食っておらず、もはや空腹を通り越して食欲が湧くという感覚はないものの、このままでは命が危ぶまれる状態だった。
ボロボロの衣服を身にまとい、素足でアスファルトの上を無気力に歩いているその男は、昔、高級車を乗り回し、一等地のクラブで豪遊していた超エリート商社マンだった。
営業成績も良く、会社から優遇されていた男は、家賃50万ほどの高層マンションに妻と2人の子供たちと共に仲睦まじく暮らしていた。
しかしながら、よくある話ではあるが、そういった男には若い女が付き物であり、当時、高級クラブのホステスをしていた美しい女に男は相当入れあげていた。
高級料亭での食事、高級アクセサリーのプレゼント、海外旅行と、かなりの金をその女につぎ込んでも、まだ余裕があるほどだった。
こうして妻と愛人を二股にかけながら生活してきた男だが、やがては愛人にほだされて、ついに妻と子供たちを捨ててしまったのだ。
その後、妻への仕送りをしつつ、愛人と新しい生活を始めた男は、今までと変わらず、仕事も絶好調であった。
しかし……ある日、急に会社が倒産し、それを境に全ての歯車が狂い出した。
金の切れ目が縁の切れ目と言わんばかりに愛人は男の元を去り、財産はあれよあれよという間に底をつき、どんどん転落していった男はホームレスに成り下がってしまった。
毎日、ゴミ箱から古雑誌を拾い集めては、それを元手に僅かばかりの日銭を稼ぎ、残飯を漁りながら、なんとか命を繋いでいく日々……。
そんな生活を10年近く続けてきたある日のこと。男が暮らすその地で、大きな地震が起こった。
その際、町中は大パニックとなり、男や他のホームレスたちも慌てふためいたが、しばらくして落ち着くと、男は良からぬことを考えるようになった。
それは、町全体がパニックに陥っているその隙に、地震で壊れた家に入って、盗みを働けば、当分ラクができるのではないかという考えだった。
男は早速、実行に移そうと、半壊・全壊した家々を回り、金品を探し歩いた。すると、思った以上の収穫が得られたため、すっかり調子に乗った男は、日々、この卑劣な手口で盗みを繰り返した。
そして、ある日。いつもと同じように、壊れた家に足を踏み入れたところ、柱の下敷きになって死んでいる女の姿を発見した。
それを見つけた男は一瞬「うっ」と思ったが、遺体を構うことはせず、テーブルの上に置かれてあった財布を取って出て行った。
その後、アジトに帰って財布から金を抜き取ろうとした瞬間、なんとなく目についた免許証を見て、男は驚愕した。
そこに写っていた写真は、見覚えのある女の顔で、名前を確認してみると、それは間違いなく自分が捨てた妻だった。
苗字は昔のまま、つまり自分と同じ苗字であることから、再婚もせず、もしかしたら自分のことを待ち続けていたのかもしれない……そんな妻の財布を盗んでしまったのだ。しかも、その遺体が脇にあるにもかかわらず。
それを知った男は自分の罪を嘆き、警察に出頭した後、仏門に入ったと言う。
この話は、とある町で起こった本当の話なんだそうで、ちょうど某局で“本当に起こった男と女の事件簿”的な番組の企画案を募集していたので出したところ、プロデューサーから驚くべき反応が返ってきた。
「この話ねぇ、確かに本当の話みたいなんすけど、ホームレスになったっていう“男”と、ウチの局の上層部の人間が、どうやら親戚関係にあるらしく……。前にも他の人が出してくれたんすけどねぇ、ウチじゃ流せないんすよ」
本当にあった事件の裏に、こんな事実もあったなんて……。
テレビではおそらく言えないので、ここにひっそりと書き記すことにした。
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男はここ数日、何も食っておらず、もはや空腹を通り越して食欲が湧くという感覚はないものの、このままでは命が危ぶまれる状態だった。
ボロボロの衣服を身にまとい、素足でアスファルトの上を無気力に歩いているその男は、昔、高級車を乗り回し、一等地のクラブで豪遊していた超エリート商社マンだった。
営業成績も良く、会社から優遇されていた男は、家賃50万ほどの高層マンションに妻と2人の子供たちと共に仲睦まじく暮らしていた。
しかしながら、よくある話ではあるが、そういった男には若い女が付き物であり、当時、高級クラブのホステスをしていた美しい女に男は相当入れあげていた。
高級料亭での食事、高級アクセサリーのプレゼント、海外旅行と、かなりの金をその女につぎ込んでも、まだ余裕があるほどだった。
こうして妻と愛人を二股にかけながら生活してきた男だが、やがては愛人にほだされて、ついに妻と子供たちを捨ててしまったのだ。
その後、妻への仕送りをしつつ、愛人と新しい生活を始めた男は、今までと変わらず、仕事も絶好調であった。
しかし……ある日、急に会社が倒産し、それを境に全ての歯車が狂い出した。
金の切れ目が縁の切れ目と言わんばかりに愛人は男の元を去り、財産はあれよあれよという間に底をつき、どんどん転落していった男はホームレスに成り下がってしまった。
毎日、ゴミ箱から古雑誌を拾い集めては、それを元手に僅かばかりの日銭を稼ぎ、残飯を漁りながら、なんとか命を繋いでいく日々……。
そんな生活を10年近く続けてきたある日のこと。男が暮らすその地で、大きな地震が起こった。
その際、町中は大パニックとなり、男や他のホームレスたちも慌てふためいたが、しばらくして落ち着くと、男は良からぬことを考えるようになった。
それは、町全体がパニックに陥っているその隙に、地震で壊れた家に入って、盗みを働けば、当分ラクができるのではないかという考えだった。
男は早速、実行に移そうと、半壊・全壊した家々を回り、金品を探し歩いた。すると、思った以上の収穫が得られたため、すっかり調子に乗った男は、日々、この卑劣な手口で盗みを繰り返した。
そして、ある日。いつもと同じように、壊れた家に足を踏み入れたところ、柱の下敷きになって死んでいる女の姿を発見した。
それを見つけた男は一瞬「うっ」と思ったが、遺体を構うことはせず、テーブルの上に置かれてあった財布を取って出て行った。
その後、アジトに帰って財布から金を抜き取ろうとした瞬間、なんとなく目についた免許証を見て、男は驚愕した。
そこに写っていた写真は、見覚えのある女の顔で、名前を確認してみると、それは間違いなく自分が捨てた妻だった。
苗字は昔のまま、つまり自分と同じ苗字であることから、再婚もせず、もしかしたら自分のことを待ち続けていたのかもしれない……そんな妻の財布を盗んでしまったのだ。しかも、その遺体が脇にあるにもかかわらず。
それを知った男は自分の罪を嘆き、警察に出頭した後、仏門に入ったと言う。
この話は、とある町で起こった本当の話なんだそうで、ちょうど某局で“本当に起こった男と女の事件簿”的な番組の企画案を募集していたので出したところ、プロデューサーから驚くべき反応が返ってきた。
「この話ねぇ、確かに本当の話みたいなんすけど、ホームレスになったっていう“男”と、ウチの局の上層部の人間が、どうやら親戚関係にあるらしく……。前にも他の人が出してくれたんすけどねぇ、ウチじゃ流せないんすよ」
本当にあった事件の裏に、こんな事実もあったなんて……。
テレビではおそらく言えないので、ここにひっそりと書き記すことにした。
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