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その芸人はホレっぽいところがあった。

学生時代にモテなかったこともあり、あんまり女性との付き合い方がわからないようで何かと女性にやさしくされるとすぐに好きになってしまうのだ。

女性の音声さんにマイクをつけてもらうときに、ちょっと身体の距離が近いだけで「あいつオレの事好きなんじゃないのか」とか、女性のプロデューサーに明らかな社交辞令で「今度ごはん一緒にいきましょうよ」とか言われると「あの人ああ見えていい女だな」とかすぐに言いだすのだ。

それはそれで幸せなのだろうが、そんなホレっぽい彼がある事件に巻き込まれてしまった。

彼は一時期、風俗にはまりさまざまな店を回って研究に研究を重ねていた。

最初は五反田を回っていた彼も、鶯谷がいいとか、意外と上野がいいとか言いつつ最後は「やっぱり五反田だよね、オレ悟ったよ」とわけのわからない悟りを開いていた。

そんなときに、ある風俗嬢にホレてしまったのだ。一度、プレイしたときに随分やさしくしゃべってくれたのが良かったらしく、次の日にその子の店にまた行ったという。

そこで、電話番号まで交換してきたと大はしゃぎだった。その翌日──、彼の元に警察から電話がかかってきた。

「○○さんをご存知ですか?」

彼はその名前を聞いたことがなかった。どこかの番組スタッフかとも思ったが心当たりがなかった。

「知りません」

「そんなはずはないだろう!」

電話の向こうで警察官がムッとしている。
しかもいつしかタメグチに変わっている。

「知らねーもんは知らねーよ!」

思わず強い言葉で言い返す。

「○○秀樹さんですけど、知らないのかって聞いてんの!」

警察官もいつしか高圧的というか、半ギレで聞いてきた。フルネームを聞いても本当に知らなかった。

「誰だよ、それ?」

「お前が昨日、そいつと最後に話してるんだよ」

「はぁ?」

「昨日の夜、死んだ○○秀樹はお前のところに電話してんの!」

そんな重大な事だったのかと彼は驚いて聞き返した。

「どういうことですか?」

「どうもこうもねーよ。昨日○○秀樹は手首切って死んでたんだよ。自殺か他殺かわからないから、関係者に電話かけてんの」

彼の脳裏に彼女が浮かんできた。その彼女のことを言ってみた。

「その秀樹さんって、見た感じ女性ですか?」

「そうだよ。ニューハーフだよ。やっぱ知ってんじゃん」

彼はがっくりと片ヒザをついた。好きだった子が死んでしまったこと……。そして、もう片ヒザをついた。その好きな子が男だったということ……。

携帯を握りしめて、両ヒザをつきながら彼は泣きだした。あまりの変わりように、半ギレしていた警察官もその頃には彼をなぐさめていた。

彼が好きだった風俗嬢は、ニューハーフで一応、上半身と下半身の工事は済んでいた。なので、男だとわからなくても仕方がないと言えば仕方がなかったのだが……。

あれ以来彼は五反田に行くのを止めて、身内ばかりを狙って女ADやプロデューサーとばかり飲みに行くようになった。
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