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放送作家という職種は、結構曖昧で「放送作家です」と言ってしまえば誰でも放送作家になれるというくらい、免許もなければ、なんの証明もいらない職種である。

さらに作家事務所にも入らずフリーとしてやっている作家は尚更である。

そういう作家は自宅を事務所としたり、マンションの一室を事務所として借りているケースが多い。

私の先輩の作家Tさんも、自宅とは別にマンションの一室を借りて事務所として使っている。

そのTさんの事務所は、まだお金のない若手作家たちが自由に使わせてもらえる作業場にもなっていた。

会社という場所がないうえにお金もない若手作家には、机・イス・プリンターなどがそろった事務所はありがたく、みんなかなりの頻度で利用していた。

難があるとすれば、その事務所の隣がお寺でお経が聞こえてきて気味が悪いということぐらいだった。

気味が悪いといっても、お経だってよく考えればただの人間の声である。何も気味悪いことはなかった。

慣れてくるにつれて、だいたい決まった時間に聞こえてくるお経が、まるで鳩時計のような役割になってきていた。

ある日、その事務所をよく利用する若手作家の3人が、芸人さんと一緒に心霊スポットにVTRを撮りに行くことになった。

ワンボックスでその心霊スポットに向かうと、そこは山の中にある廃墟ホテルで物音1つしない静まり返った空間だった。

みんなで恐る恐る廃墟ホテルに入り、台本通りに撮影を進めていた。しかし、しばらくカメラを回してみても特になにも心霊現象は起こらなかった。

「これでは面白くないなぁ。どうしようか?」

などとみんなで相談していると、一人の作家Nくんの携帯に電話が入った。出ると若手作家仲間Kくんからの電話だった。

しかし山の中ということもあり電波が悪く、ほとんど聞き取れないまま電話は切れてしまった。

再度、Kくんから着信があったがまた切れてしまった。よっぽど急な用事があるのか? と思っているとメールが届いた。そこには、

「電話がつながらないのでとりあえずそっちに行きます」

と書かれていた。しかし、今日ロケに来ていることをKくんは知らないはずなので「そっちに行きます」って言ってるけど、今どこにいるのか知らないだろうとみんなで笑っていた。


しばらくすると、またそのKくんから電話がかかってきた。今度は電波がつながりしゃべる事ができた。Kくんは受話器の向こうから、

「着きましたけど、鍵閉まってるので入れないです」と言ってきたのでNくんは、

「着きましたってどこに着いたの? 今、俺ロケで外に出てるよ」と言った。

するとKくんは少し驚いた感じで、
「あっ、そうだったんですか? 事務所に来ちゃいました。勘違いしました」と言って電話を切った。

その帰りの車内で、今度は別の作家Sくんの携帯にKくんから電話が入った。Sくんは電話に出るとすぐにさっきのKくんのマヌケな出来事をイジった。

Sくん「お前、アホだなぁ。何で勝手に事務所にいると思ったんだよ。マヌケすぎるだろ」

Kくん「うわっ、もう聞いたんですか。早いですよ。で、Sさんは今、事務所ですか?」

Sくん「だから、なんでだよ! 今、帰りの車の中だよ」と言うとKくんは少し黙った後に続けた。

「だってさっきからずっとお経が聞こえてるから……」

Kくんはロケ中のNくんに電話した時も、お経が聞こえた為に事務所にいるのかと思って行ってしまったということだった。
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