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夏になると必ず怪談などの怖い番組が制作される。

この話は、制作会社に入社してまだ間もない26歳のAD田中君が怪談番組に初めて携わることになり発覚した、ちょっと怖い思い出の話だ。

番組を作るのに大事な作業は、プロデューサーやディレクターや放送作家などを集めて定期的に行われる会議で、まずはここで番組の内容をかためてから、それぞれの作業に入っていく。

入社して初めての夏に怪談特番の担当になったAD田中くんは、どうにか先輩方に気に入ってもらおうと張り切っていた。

しかし、会議でのADの仕事といえば、みんなが飲んだり食べたりするケータリングを用意し、資料をコピーして人数分そろえ、会議中は立ちっぱなしで、ホワイトボードに決まったことを書いていくという書記の仕事。

会議の内容に意見を言う隙間は与えられなかった。とくに入って間もない田中君は、一言もしゃべる事のない会議が数回続いた。

そんなある日、会議がなんとなく煮詰まってきたとき一人の作家さんが田中君に質問した。

「君、なんか怖い話とか持ってる?」

その作家さんも田中君から本気で意見をもらおうというよりは、なんとなく箸休め的な感じだった。

やっとしゃべるチャンスを与えられた田中君は頭をフル回転させて、自分の記憶を掘り起こしてしゃべり出した。

「大した話じゃないですけどいいですか? 子供の頃に小学校で流行った話なんですけど、僕が生まれるずっと前に近くの山で一人の男の人が

『サバレ、サバレ……』みたいな感じの変な奇声をあげて死んだっていう噂が元々あったんです。

ある日、僕らの小学校に放課後その声を聞いたっていう友達が何人か出てきたんです。

それからその話をすると『サバレ、サバレ……』って言う男のお化けが出るからしてはいけないっていう事になって、学校から禁止されるまで大事になった事がありました」

それを聞いたディレクターは
「小学生レベルだな。使えないよ」
と一笑に付し、みんな大笑いした。

確かに、小学生がよくしそうな噂話だった。せっかくのチャンスをものにできなかった田中君は落ち込んだが、逆にそのミスをきっかけにみんなから話しかけてもらえるようになった。

話しかけてもらえるというよりは「イジられる」と言った方が正しいだろう。事あるごとに「サバレ、サバレ」とイジられ、ついには「おい、サバレ」と呼ばれ、あだ名になってしまった。

それから、特番も無事終わり「サバレ」というあだ名も板についてきた頃、田中君は別の番組の取材で、アジア人が多く働くキャバクラにディレクターと一緒に行くことになった。

初めてのキャバクラにテンションが上がって仕事を忘れてしまった田中君に

「おい! サバレ! 調子にのるな!」
とディレクターがキレた。

すると一人の韓国人の女性が

「あなたサバレっていうの?」
と不思議そうに質問してきた。

ディレクターがあだ名がついた経緯を面白おかしく説明すると、その韓国人女性が片言の日本語で言った。

「『サバレ』って朝鮮語の田舎言葉で『捕まえろ』って意味ですよ」

それを聞いた二人はビックリして目を見合わせた。田中君が小学生時代を過ごした地元というのは、今では拉致で有名な新潟県の海岸沿いにある小さい町だった。
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