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あれは、5年ぐらい前のことでしょうか……。

当時、私はディレクターの彼と付き合っていたのですが、その時のデートは大概、彼の奢りでした。というか、正しくはTV局の奢りでした。

本当は絶対にいけないことですが、作家の私とご飯に行く時は、打ち合わせという名目で領収書を切れば、経理的にはそれで通りますし、どこかに出かける時は、ロケハン(実際にタレントを連れてロケに出る前に、その現場を下見に行くこと)ということにすれば、遊びに行った際に使った交通費や食費も“必要経費”とみなされ、後で精算してもらえるのです。

と言っても、今はどこのTV局も厳しくなり、ちょっとでもおかしいと怪しまれた場合はとことん追及され、納得できる理由がないと、お金を出してくれないようです。

不況不況と言われながらも、今よりはまだTV局も羽振りが良かった5年前。

彼と私は、いつものようにロケハンという名目で、東京から2時間弱で行ける温泉地へ日帰りで遊びに行きました。

それまでずっとレギュラー番組やら特番やらの編集、収録に追われ、休みのない生活を送っていた彼は、久々の休みでテンションが上がり切っており、行きの車の中から上機嫌でした。

ちなみに、この時、レンタカーを借りて行ったのですが、もちろん、この車代も経費扱いして頂きました。○BSさん、本当にごめんなさい。

車をしばらく走らせ、お腹がすいた私たちは、途中でソバ屋に入りました。

そこで名物のソバをすすりながら、お店の人に
「この近くにお勧めのスポットはありませんか?」と尋ねると、車で15分ほど行った先に有名な滝があると教えてくれました。

その下には小川が流れていて、とても清々しく、景色も最高! というので、私たちは早速行ってみることにしたんです。

ソバ屋さんに教えてもらった滝に着いた私たちは、その景色の素晴らしさに感動しました。

ゴーっと落ちてくる滝と、その下を静かに流れる小川……そこにはマイナスイオンが満ち溢れていて、本当に心が癒される感じがしました。

私たちは滝の下にあった大きな岩に並んで腰掛け、色々話をしていると、時折、水しぶきが飛んできて、顔にかかったりました。

それはとても冷たかったのですが、夏場だったので、ちょうど良く「気持ちイイね」なんて言ってた時のことです。

しばらくすると、バッシャーンと、大きな水しぶきが彼の体全体にかかり、Tシャツがビショビショになってしまいました。

「わぁ~! つめてぇ~!」

「アハハハハ! 大丈夫~?」

まるで青春ドラマの1コマのようなシチュエーションに思わず笑ってしまいましたが、いくら夏場とは言え、風邪をひいたらマズいということで、私たちは車に戻り、彼は替えのTシャツに着替えました。

その後、温泉に入り、夕食を食べ終わった私たちは帰途につき、彼は私を送り届けてから車を返しに行きました。

そして、1週間後。久しぶりに彼の部屋に遊びに行った時のことです。

「この間、滝でずぶ濡れになったTシャツさぁ……洗おうと思って袋から出したら、すんげぇシミになってんだけど」

そう言って彼が見せてくれたTシャツには、確かに、すごい範囲で茶色っぽいシミが広がっていました。

それを見た私は、あの滝に含まれる成分的なものに原因があるのかもしれないと思い、ネットで調べてみようと提案しました。

滝の名称を入れ、検索ボタンをクリックしたところ……“○○県の観光名所”とか“紅葉の絶景スポット”“日本の滝百選”などの言葉がズラ~っと出てきた後、3ページ目あたりから“自殺の名所”というのがチラホラと出てきました。

それを目にした私たちは「もしかして……」と顔を見合わせ、すぐさま、厄払いをしてくれるお寺に連絡を入れてみました。

すると、どうやら、そのシミは自殺者が亡くなった時の“血しぶき”が強い念と共に水しぶきに混じり、彼のTシャツに付着したものと考えられ、いずれにせよ、手元に置いておくのはやめた方がいいとのことでした。

そう言われた彼は、Tシャツと共に自身の身もきちんとお寺で祓ってもらったのですが、さすがに、この時のお祓い代ばかりは“経費”として認められなかったそうです。
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