女子高生の彼女がいると打ち明けられてみんな一斉にそのデブの作家を振り返った。まだ2月だと言うのに、湯気が出そうなくらいの汗だく、机の上の書類にも汗のしみが飛んでいる。
パンパンに張った肉のおかげで、肌はつやつやに見えて年齢不詳だが30歳も半ばの独身男である。
彼女がいるだけでも驚きのルックスをしているその男に、なんと女子高生の彼女がいると言い出したら、番組会議の進行が止まってしまうのはしょうがない。
いつもはクールな40代のプロデューサーが珍しく興奮して聞いた。そのデブの作家の名前を仮に野田としておこう。
その野田はネットに詳しいとかで、女子高生の彼女もミクシィみたいな、ちょっとオッサンにはわからない感じのサイトで出会ったのだそうだ。
普段は会議中半分寝てるプロデューサーが声を荒らげて「そのサイトを教えろよ」とペンを片手に聞いている。
野田いわく、ネットで女と知り合うのはカンタンらしい。狙い目はアニメ好きの女子。
これはあくまでも野田の言い分なのだが、普通の女の子は、やはり男というものの対処の仕方を心得ている。
ところが、アニメ好きの女子というのは人間の男と会話した回数が少なく、もちろん口説かれたこともないので対処法を知らないというのだ。
つまり、ちょっとくらい顔がまずかろうが、クサいセリフを吐こうがアニメ好きの女子なら見事に引っかかるという。
実際、野田は現在の女子高生の彼女だけでなく、何人も付き合ってきたという。
なんと今は3股をかけた状態で、プライベートが忙しいという。すっかり野田の武勇伝の報告会になってきた番組会議の場で、野田は不思議な話を語りだした。
いつも使っているサイトで知り合ったその子は、まゆと名乗った。“摩柚”というちょっと読みにくい漢字を使うところにアニメ好きの女子らしさが出ていた。
その摩柚は、典型的な寂しがりなタイプで、野田の書き込みにすぐに食いついてきた。いつしか、サイトの中を飛び出して、直接メールのやりとりをするようになった。
「これはイケるんじゃないか」と野田は思ったが、意外に摩柚はガードが固かった。どうやら野田のことは、信頼のおける相談役みたいに思っているようで、男女の関係を匂わすとまったくの無反応だった。
摩柚はひたすら、野田に対して自分の置かれた境遇と悩みを打ち明けてきた。摩柚は、親にも冷たくされ、学校でも友達ができないタイプのようだった。
心の隙間ができた分、それをアニメや空想で埋めている、そんな精神構造だと見てとれた。ただ、不思議なことに、自分のことなのに、どこか他人事のように語るのがちょっと不気味だった。
その日、摩柚から朝一番に来たメールの内容は不思議だった。“ありがとう”と一言書いてあった。前の日に彼女に何をしてあげたわけでもないのに、意味がわからない。
理由のない感謝の言葉は実に気味が悪かった。すぐに返信したが、メールは返ってこなかった。
その日、野田は仕事でバタバタとしており、メールチェックをできたのは夜の10時ごろだった。摩柚からの返信があった。
“あなたに逢いたい。○○区の**で待ってる。携帯は壊れてるから直接来て”
あの摩柚が自分から誘ってきたのだ。朝の変なメールのことは吹っ飛んでいた。
野田は慌ててメールに書いてある住所へ向かった。そこはお通夜の真っ最中だった。
何度も確かめたが摩柚が指定した家では通夜が行われているようだった。うっすらとお経が聞こえるその家の前に1枚の張り紙が貼ってある。亡くなった人物の名前が書いてあった。
──鈴木 摩柚。
彼女の名前だった。
本来ならそんな勇気はないだろうが、野田は思い切って参列客の1人に声を掛けた。
「すいません。摩柚さんはいつ亡くなったんですか?」
中年の男性に声を掛けた。その横には摩柚の同級生らしい20歳くらいの女性。恐らくは親子であろう。娘の肩を抱いたその男性は力なく答えた。
「今朝、発見されたそうですよ。若いのに、自ら命を捨てるなんて……」
男性がそう言うと娘はまた大きく泣き出した。野田は軽く会釈をしてそのまま帰ってきたという。
それ以降、摩柚からは一切メールは来なかったそうだ。摩柚から届いたありがとうのメールの意味はなんとなく想像がついた。
しかし、野田を誘ったあのメールは誰が打ったものなのか。死んだ摩柚が送ってきたものなのか。
野田の話が終わるとさっきまで熱気があった会議室がシンと静まり返った。一同、不思議な話に心を奪われていた。
ところが、プロデューサーだけはちがったようだ。「そんな話どうでもいいから、早くヤれるサイト教えてよ」
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パンパンに張った肉のおかげで、肌はつやつやに見えて年齢不詳だが30歳も半ばの独身男である。
彼女がいるだけでも驚きのルックスをしているその男に、なんと女子高生の彼女がいると言い出したら、番組会議の進行が止まってしまうのはしょうがない。
いつもはクールな40代のプロデューサーが珍しく興奮して聞いた。そのデブの作家の名前を仮に野田としておこう。
その野田はネットに詳しいとかで、女子高生の彼女もミクシィみたいな、ちょっとオッサンにはわからない感じのサイトで出会ったのだそうだ。
普段は会議中半分寝てるプロデューサーが声を荒らげて「そのサイトを教えろよ」とペンを片手に聞いている。
野田いわく、ネットで女と知り合うのはカンタンらしい。狙い目はアニメ好きの女子。
これはあくまでも野田の言い分なのだが、普通の女の子は、やはり男というものの対処の仕方を心得ている。
ところが、アニメ好きの女子というのは人間の男と会話した回数が少なく、もちろん口説かれたこともないので対処法を知らないというのだ。
つまり、ちょっとくらい顔がまずかろうが、クサいセリフを吐こうがアニメ好きの女子なら見事に引っかかるという。
実際、野田は現在の女子高生の彼女だけでなく、何人も付き合ってきたという。
なんと今は3股をかけた状態で、プライベートが忙しいという。すっかり野田の武勇伝の報告会になってきた番組会議の場で、野田は不思議な話を語りだした。
いつも使っているサイトで知り合ったその子は、まゆと名乗った。“摩柚”というちょっと読みにくい漢字を使うところにアニメ好きの女子らしさが出ていた。
その摩柚は、典型的な寂しがりなタイプで、野田の書き込みにすぐに食いついてきた。いつしか、サイトの中を飛び出して、直接メールのやりとりをするようになった。
「これはイケるんじゃないか」と野田は思ったが、意外に摩柚はガードが固かった。どうやら野田のことは、信頼のおける相談役みたいに思っているようで、男女の関係を匂わすとまったくの無反応だった。
摩柚はひたすら、野田に対して自分の置かれた境遇と悩みを打ち明けてきた。摩柚は、親にも冷たくされ、学校でも友達ができないタイプのようだった。
心の隙間ができた分、それをアニメや空想で埋めている、そんな精神構造だと見てとれた。ただ、不思議なことに、自分のことなのに、どこか他人事のように語るのがちょっと不気味だった。
その日、摩柚から朝一番に来たメールの内容は不思議だった。“ありがとう”と一言書いてあった。前の日に彼女に何をしてあげたわけでもないのに、意味がわからない。
理由のない感謝の言葉は実に気味が悪かった。すぐに返信したが、メールは返ってこなかった。
その日、野田は仕事でバタバタとしており、メールチェックをできたのは夜の10時ごろだった。摩柚からの返信があった。
“あなたに逢いたい。○○区の**で待ってる。携帯は壊れてるから直接来て”
あの摩柚が自分から誘ってきたのだ。朝の変なメールのことは吹っ飛んでいた。
野田は慌ててメールに書いてある住所へ向かった。そこはお通夜の真っ最中だった。
何度も確かめたが摩柚が指定した家では通夜が行われているようだった。うっすらとお経が聞こえるその家の前に1枚の張り紙が貼ってある。亡くなった人物の名前が書いてあった。
──鈴木 摩柚。
彼女の名前だった。
本来ならそんな勇気はないだろうが、野田は思い切って参列客の1人に声を掛けた。
「すいません。摩柚さんはいつ亡くなったんですか?」
中年の男性に声を掛けた。その横には摩柚の同級生らしい20歳くらいの女性。恐らくは親子であろう。娘の肩を抱いたその男性は力なく答えた。
「今朝、発見されたそうですよ。若いのに、自ら命を捨てるなんて……」
男性がそう言うと娘はまた大きく泣き出した。野田は軽く会釈をしてそのまま帰ってきたという。
それ以降、摩柚からは一切メールは来なかったそうだ。摩柚から届いたありがとうのメールの意味はなんとなく想像がついた。
しかし、野田を誘ったあのメールは誰が打ったものなのか。死んだ摩柚が送ってきたものなのか。
野田の話が終わるとさっきまで熱気があった会議室がシンと静まり返った。一同、不思議な話に心を奪われていた。
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