放送作家はやはり打ち合わせに出てナンボである。
遅刻しそうな会議が遅れてはじまったり、どっちも出なくちゃいけない打ち合わせがかぶっても、片方の打ち合わせが中止になったり、そんな都合の良いことがたびたびボクには起こるのである。
打ち合わせに顔を出さないのは作家が番組をクビにされる1番の理由である。作家はなんとか少しでも顔を出しておきたいのである。
つまり、たびたびこんなラッキーが起きるボクは作家としてかなりトクをしている事になるのだ。
この事を話すと周りの作家にうらやましがられるのだが、もうこれはそういう星の元に生まれたとしか言いようが無いと思う。
なにしろ、あんな修羅場をくぐりぬけたのだから……。
ボクの実家は今でも田舎である。さすがに今ではなくなったが、ボクが子どもの頃はどこの家もカギなんてつけていなかった。
小学生の頃、ボクは同級生の吉岡くん(仮名)の家によく遊びに行っていた。
吉岡くんの家は田舎なので100mくらいの距離はあったが2軒となりで本当に近所だった。
小学校3年生のときは同じクラスになったこともあり、本当に自分の家かのように吉岡くんの家に勝手にあがりこんでいた。
もちろん、吉岡くんもボクの家に勝手入って冷蔵庫の麦茶を飲んだりしていた。そんな関係だったのである。
ある日、ボクが宿題をしようと思いランドセルを開けると教科書がなかった。ちょうど、その日の授業で吉岡くんに教科書を貸したことを思い出したのだ。
今考えると同じクラスなのになんで教科書を貸したのかよくわからないが、とにかくボクの教科書は吉岡くんのランドセルに入っているのは確かだった。
日は暮れて辺りは暗かったが、吉岡くんの家に教科書を返してもらうため向かった。
当然のごとく吉岡くんの玄関のカギは開いていた。ところが、引き戸も開いていたのである。昼ならわかるが、こんな夜に開いている事はあまりない。
しかも、吉岡くんの家の中は電気もつけずに真っ暗だった。
「どこかに食事にでも行ってるのかな?」
小学校3年生の頭で考えられるのはそこまでだった。真っ暗な家は怖かったが、自分の家のように行き来していたので、吉岡くんの部屋まで手探りで向かった。吉岡くんの部屋も真っ暗で雨戸も閉められていた。
電気をつけようと思ってスイッチに向かった瞬間、足に吉岡くんのランドセルの感触があった。
手探りで教科書を探し出して、どうにか自分の教科書だと確かめたボクは真っ暗な廊下を進んで玄関から外へ出た。
誰もいないのはわかっていたが小さく、
「おじゃましました」
そう言って出てきた。
吉岡くんは3番目に殺されたそうだ。
次の日、母親にたたき起こされた。
そして、吉岡くんの家の前にいる警察官のもとへ引っ張られていった。あのいつも行き来していた、昨日も出入りした吉岡くんの家が殺人現場になっていた。
吉岡くんのお父さんもお母さんも妹も、みんな殺されていたのだった。あまりの出来事にぼうぜんとしていると、制服じゃない警察の人がやってきた。
どうやら刑事のようだった。初めて見る刑事は、体育の先生のような雰囲気の人だった。
「昨日の夜、キミはこの家に入ったんだね?」
当時のボクは、自分が犯人だと疑われていると思い泣き出してしまった。もちろん、その刑事も誰しもがそんな小学校3年生のイガグリ坊主を犯人だと思っているわけもなかった。
事情を知りたかったのだ。しばらくして、落ち着いたボクはしゃくり上げながらも必死で説明をした。
家が暗かったこと、吉岡くんの部屋に入ったこと、教科書を持って家を出たこと、そしてちゃんと挨拶をしてから出てきたことまで。
そこまで話すとニコッと初めて刑事は笑顔を見せた。
「ちょっと子ども部屋まで来てくれるかな?」
言われるまま、吉岡くんの部屋に刑事と向かった。殺人が行われた現場は風呂場だったらしく、吉岡くんの部屋はキレイなまんまだった。
刑事がボクに昨日の行動を再現してくれと言ってきた。そこで自分は緊張しながらも、ジェスチャーをおりまぜて昨日の動きをしてみせた。そこでふと思い出した。
「なんか、ベッドの方で物音がしたんです」
動いていて思い出したのだが、ベッドで物音がしたから電気をつけようとしたのだ。そこにたまたまランドセルがあったから電気はつけなかったが。
刑事はベッドが気になったらしく、警官に指示をしてベッドの周りを調べさせていた。するとベッドの下から一枚のメモが見つかった。
どうやら犯人が残していったものらしく、指紋が残っているとかどうとかで急に現場が慌ただしくなった。
ふと、そのメモを見た刑事は「よかったな」とボクの頭をなぜた。
どういう事かわからなかったボクはそのメモを覗き込んだ。すると、そこには殴り書きでこう書いてあった──。
『電気をつけなくてよかったな』
後日、その犯人は捕まった。吉岡くんの親戚だそうで、土地の相続問題が絡んだ恨みがあったのだそうだ。
犯人はちょうどボクが吉岡くんの部屋に入ったときに、ベッドの下に隠れてやりすごしたという。
もしも、電気をつけてその犯人の顔を見ていたら、ボクはどうなっていたかわからない。
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遅刻しそうな会議が遅れてはじまったり、どっちも出なくちゃいけない打ち合わせがかぶっても、片方の打ち合わせが中止になったり、そんな都合の良いことがたびたびボクには起こるのである。
打ち合わせに顔を出さないのは作家が番組をクビにされる1番の理由である。作家はなんとか少しでも顔を出しておきたいのである。
つまり、たびたびこんなラッキーが起きるボクは作家としてかなりトクをしている事になるのだ。
この事を話すと周りの作家にうらやましがられるのだが、もうこれはそういう星の元に生まれたとしか言いようが無いと思う。
なにしろ、あんな修羅場をくぐりぬけたのだから……。
ボクの実家は今でも田舎である。さすがに今ではなくなったが、ボクが子どもの頃はどこの家もカギなんてつけていなかった。
小学生の頃、ボクは同級生の吉岡くん(仮名)の家によく遊びに行っていた。
吉岡くんの家は田舎なので100mくらいの距離はあったが2軒となりで本当に近所だった。
小学校3年生のときは同じクラスになったこともあり、本当に自分の家かのように吉岡くんの家に勝手にあがりこんでいた。
もちろん、吉岡くんもボクの家に勝手入って冷蔵庫の麦茶を飲んだりしていた。そんな関係だったのである。
ある日、ボクが宿題をしようと思いランドセルを開けると教科書がなかった。ちょうど、その日の授業で吉岡くんに教科書を貸したことを思い出したのだ。
今考えると同じクラスなのになんで教科書を貸したのかよくわからないが、とにかくボクの教科書は吉岡くんのランドセルに入っているのは確かだった。
日は暮れて辺りは暗かったが、吉岡くんの家に教科書を返してもらうため向かった。
当然のごとく吉岡くんの玄関のカギは開いていた。ところが、引き戸も開いていたのである。昼ならわかるが、こんな夜に開いている事はあまりない。
しかも、吉岡くんの家の中は電気もつけずに真っ暗だった。
「どこかに食事にでも行ってるのかな?」
小学校3年生の頭で考えられるのはそこまでだった。真っ暗な家は怖かったが、自分の家のように行き来していたので、吉岡くんの部屋まで手探りで向かった。吉岡くんの部屋も真っ暗で雨戸も閉められていた。
電気をつけようと思ってスイッチに向かった瞬間、足に吉岡くんのランドセルの感触があった。
手探りで教科書を探し出して、どうにか自分の教科書だと確かめたボクは真っ暗な廊下を進んで玄関から外へ出た。
誰もいないのはわかっていたが小さく、
「おじゃましました」
そう言って出てきた。
吉岡くんは3番目に殺されたそうだ。
次の日、母親にたたき起こされた。
そして、吉岡くんの家の前にいる警察官のもとへ引っ張られていった。あのいつも行き来していた、昨日も出入りした吉岡くんの家が殺人現場になっていた。
吉岡くんのお父さんもお母さんも妹も、みんな殺されていたのだった。あまりの出来事にぼうぜんとしていると、制服じゃない警察の人がやってきた。
どうやら刑事のようだった。初めて見る刑事は、体育の先生のような雰囲気の人だった。
「昨日の夜、キミはこの家に入ったんだね?」
当時のボクは、自分が犯人だと疑われていると思い泣き出してしまった。もちろん、その刑事も誰しもがそんな小学校3年生のイガグリ坊主を犯人だと思っているわけもなかった。
事情を知りたかったのだ。しばらくして、落ち着いたボクはしゃくり上げながらも必死で説明をした。
家が暗かったこと、吉岡くんの部屋に入ったこと、教科書を持って家を出たこと、そしてちゃんと挨拶をしてから出てきたことまで。
そこまで話すとニコッと初めて刑事は笑顔を見せた。
「ちょっと子ども部屋まで来てくれるかな?」
言われるまま、吉岡くんの部屋に刑事と向かった。殺人が行われた現場は風呂場だったらしく、吉岡くんの部屋はキレイなまんまだった。
刑事がボクに昨日の行動を再現してくれと言ってきた。そこで自分は緊張しながらも、ジェスチャーをおりまぜて昨日の動きをしてみせた。そこでふと思い出した。
「なんか、ベッドの方で物音がしたんです」
動いていて思い出したのだが、ベッドで物音がしたから電気をつけようとしたのだ。そこにたまたまランドセルがあったから電気はつけなかったが。
刑事はベッドが気になったらしく、警官に指示をしてベッドの周りを調べさせていた。するとベッドの下から一枚のメモが見つかった。
どうやら犯人が残していったものらしく、指紋が残っているとかどうとかで急に現場が慌ただしくなった。
ふと、そのメモを見た刑事は「よかったな」とボクの頭をなぜた。
どういう事かわからなかったボクはそのメモを覗き込んだ。すると、そこには殴り書きでこう書いてあった──。
『電気をつけなくてよかったな』
後日、その犯人は捕まった。吉岡くんの親戚だそうで、土地の相続問題が絡んだ恨みがあったのだそうだ。
犯人はちょうどボクが吉岡くんの部屋に入ったときに、ベッドの下に隠れてやりすごしたという。
もしも、電気をつけてその犯人の顔を見ていたら、ボクはどうなっていたかわからない。
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