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これはある芸人から聞いた話です。

かつてあった大阪のある劇場は、若手芸人の登竜門と言われ、連日女性ファンたちで満員の状態でした。毎日ライブを行っているのですが、人気のある芸人が出る日はチケットを取るのも一苦労。

芸人のネタなんかまったく見えない名ばかりの“立ち見”席ですら売り切れるほど。それほど猛烈な状況でした。

そんな、連日大入りの劇場に毎日顔を出しているファンがいたのです。いつしか彼女の事を芸人たちは覚えてしまっていました。

彼女は少し太っていてメガネをかけオカッパ頭だったので、劇場に出ている芸人たちは彼女の事を大木凡人さんになぞらえて「ボンド」と呼んでいました。

その独特なルックスが特徴的だったこともあるのですが、もう1つ彼女が記憶に残りやすい理由があったのです。

それは、彼女がいつも同じ席に座っていたから……。連日チケット売り切れの状態がつづく中、彼女は必ず「A─7」に座っていたのです。

それは舞台の上の芸人から見てちょうど目の前。舞台の真ん前だったのです。劇場に出演している芸人は必然的に彼女の事を覚えずにはいられませんでした。

毎日やってきてはお目当ての芸人に、ファンレターとタバコを渡して帰っていく。20歳に満たない彼女がチケット代をどこから出していて、なぜ真ん中の一番いい席を毎日取れるのか……。

それは、芸人たちの間で七不思議とも言われる謎でした。そんなある日のこと、ボンドの指定席「A─7」が空いているのです。

最初に気付いた芸人が次の出番の芸人に伝え、それをまた他の芸人に伝えて行く。たしかにいつもいたボンドは来ていなかったのです。

相当なベテランの先輩でさえ「初めてやわ」と言うほどの大事態だったのです。その日のライブは結局最後までボンドはあらわれませんでした。

それから次の日も、その次の日も1週間を越えてもボンドはあらわれませんでした。芸人の間では「七不思議がもう一つ増えた」とボンドが来ない事を不思議がり始めました。

さらにもっと不思議な事に、ボンドがいない「A─7」の席に誰も座らないのです。満員の席にポコッと空いている「A─7」の席。

どうやら誰かがチケットを取っているそうなのです。それはボンドなのかどうかわかりません。

みんなが気味悪がり始めてしばらくしたころ、一通の手紙がその劇場に出ているある芸人の元に届きました。

手紙にはその芸人とボンドが2ショットで写っている写真が入っており、さらにこんな内容の手紙が添えられていました。

──私は○○子の母です。

○○子というのはボンドの本名でした。

──あの子はずっとあなたのファンで毎日劇場におっかけをしに行っていました。いつも嬉しそうに私にその話をしてくれていました。そんな○○子が先日、他界いたしました。

治らない病気ではなかったのですが、風邪をこじらせてそのまま眠るように逝ってしまいました。

こんな事を書かれても迷惑かもしれませんが、あの子の代わりに一言お伝えしたくお手紙させていただきました──。

その手紙を見て初めて理解できました。ボンドは死んだから来られなかったのでした。

──病を患っていた娘のために、私がいつも一番いい真ん中の最前列の席を用意してやっていました。

皆さんに顔を覚えられたいとの一心でした。覚えていただけたでしょうか──。

病気の娘のために母親が必死でチケットを取ってやっていたのだ。なるほどと納得できたのはここまででした……。

──それも、あの子が死んでからはもうその必要がありません。一番いい席を独占してしまって他のファンの方には悪い事をしてしまいました。

娘に代わり謝らせていただきます。それではどうぞ皆様お元気で、ますますの活躍お祈り申しあげます──。

ボンドが死んでからはチケットを取っていない。ということは……ここ1週間あの席を取っているのは誰なのか?なぜ誰も座らないのか?ボンドが来ているのか……。

それからしばらくの間も、真ん中の「A─7」の席はなぜか空いたままでした。
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