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大学時代、同じ学科にかなり個性的なファッションの女子生徒がいた。
 
「ヒトミ」という名の彼女は、赤い髪の毛に、真っ黒なアイシャドウ、口紅も黒に近く、白いワイシャツを着崩し、いつもドクロや十字架が描かれたネクタイをしていた。

下はノルウェーの国旗みたいな柄のスカートに、歩きにくそうなブーツ。いわゆる「ゴスパンク系」のファッション。

この格好で学校にいるだけでも充分目を引くが、何よりもヒトミを目立たせていたのは、左右の手にはめられた手錠だった。

左右をつなぐ鎖は長めになっているものの、どう考えても日常生活に支障が出ているようだった。

学食で昼食を食べている時も、鎖がおかずにつきそうになっていて、見ている方がヒヤヒヤしてしまう。
 
「それ、邪魔じゃないの?」

と聞いても、

「いや、別に……」
 
とボソボソ言うだけ。近づきにくいオーラ満載のヒトミは、やはり浮いた存在になっていた。

「インディーズのヴィジュアル系バンドの大ファンらしい」という情報以外、ヒトミのことはよくわからなかった。
 
今はバラエティ番組の作家の仕事が多い僕だが、大学時代はドキュメンタリー番組を制作したいと思っていた。

大学二年の夏休み。

僕は自主制作でドキュメンタリーを撮ることにした。そして真っ先に思い浮かんだ題材が、ヒトミだった。

夏休み前、ヒトミにその話をすると意外にも乗り気で、快く了承してくれた。近寄りがたい雰囲気のヒトミだったが、じっくり話しているうちに口数も多くなり、笑顔を見せてくれるようになった。

やはりヒトミはあるヴィジュアル系バンドの大ファンで、バイト代はほとんどそのバンドとファッションに使っているという。

ドキュメンタリー番組と言っても、ずっと密着してカメラを回し続けるわけではなく、

「今日は買い物しているところと、バイトに行くところを撮るから」などとシーンを指定して、カメラを回させてもらった。

ヒトミは漫画喫茶のバイトの時と、入浴と就寝時以外は手錠を外さなかった。

そして、手錠を外している姿は撮らせてもらえなかった。
 
「何でずっと手錠付けているの?」

入学以来ずっと抱いていた疑問をぶつけると、

「最初はかっこいいからって外出する時だけ付けていたんだけど、いつの間にか体の一部みたいになってて。今は付けていないと自分じゃないって思うくらいになっちゃった」

と言う。手錠を外した姿も撮りたかったので、

「手錠を外して1日生活してみない?」

と提案しても、

「絶対いやだ。バイトの時とかは仕方ないけど、恥ずかしい。メガネしてる人がメガネを外した顔を見られるのが恥ずかしいのと一緒」

と、手錠に執着を見せていた。

撮影も終わりに近づいてきたある日。大ファンのバンドのライブがあるというので、ライブに行く準備をする様子と、ライブ会場での様子を撮らせてもらうことにした。

早朝にヒトミの住むアパートに行くと、今起きたばかりと思われるヒトミがジャージ姿で迎えてくれた。

メイクをしていないヒトミは別人みたいに薄い顔で、手錠も付けていなかった。

これはチャンス! と拝み倒して、メイクする様子を撮らせてもらえることになった。

「ライブ仕様」という、いつもより気合いの入った化粧をし、いつもの手錠をはめて準備完了した所に、ゴミ収集車が音楽を流してアパートの近くにやってきた。

「あ! ゴミ忘れてた!」

ヒトミはライブ仕様のゴスパンクファッションのまま、ゴミ袋をつかんで走って出て行った。

「いやぁ、面白いシーンが撮れた」

思わぬ収穫に喜んで、ヒトミが入ってくる姿をとらえようと玄関にカメラを向けようとした時、

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

物凄い悲鳴と、直後に数人の男達が騒ぐ声が聞こえた。驚いて外に出た僕は、腰を抜かして立てなくなってしまった。

ゴミ収集車に、ヒトミが頭まで巻き込まれていた。伸ばした両腕と頭がゴミを取り込むローラーに巻き込まれ、下半身はダランとして、時折ピクピクと痙攣していた。

ゴミ袋を収集車に投げ入れようとしたところ、袋が手錠の鎖に引っ掛かってしまい、そのまま体ごと収集車のローラーに入って行ってしまったのだった。  

聞こえた悲鳴は、ヒトミの断末魔の叫びだった。

ヒトミは救急車で病院に搬送された。一命は取り留めたものの、両手の肘から先を切断、顔面の損傷も激しく、原型をとどめないほどになってしまったという。

僕は病院でずっと待っていたが、容態が安定した後もしばらく面会謝絶で、ヒトミの様子を見ることができなかった。

数ヵ月後、ヒトミは地元の病院に転院してしまい、そのまま所在がわからなくなってしまった。

今でもゴスパンクの格好をしている子を見るたびに、ヒトミを思い出してしまう。

ヒトミの断末魔が入っているであろうあのビデオテープは、元気なころのヒトミが映っていると思うとどうしても処分できず、部屋の奥にしまってある。
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