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10代の頃、グラビアアイドルとしてデビューし、今や、バラエティにドラマ、クイズ番組の司会、ラジオのパーソナリティと大活躍中のタレントAさん。

これは、そんなAさんがグラビア時代に体験した、恐ろしい話です。

休みの日、街でブラブラ買い物をしている時にスカウトされ、その流れで今の事務所に入ったAさんは、最初の頃は結構辛い思いをしたと言います。

事務所の方からスカウトしてきたくせに「今のままじゃ、グラビアではやっていけない。痩せろ!」とダイエットを強いられたり、

新人の頃に出演したバラエティ番組では、緊張して全く喋れないでいると、心ない司会者から「いいよね、グラビアの子は。座ってるだけで金もらえるんだから」と酷い言葉を浴びせられたり……。

それでも、彼女は頑張って毎日ダイエットに励み、表情の研究もしながら、少しずつ撮影の仕事をこなすようになりました。

そんなAさんに、ある日、サイパンでの写真撮影の仕事が入り、大きな期待を胸に現地へと向かいました。

現地に到着すると、すぐに撮影開始ということで、水着に着替えた彼女は、カメラマンの元に
「今回は、よろしくお願いします」と挨拶をしに行きました。

すると、カメラマンは笑顔で「こちらこそ、よろしく!お互い、イイ仕事しましょう!」と爽やかに答え、和やかなムードで撮影が始まりました。

Aさんが美しい海をバックにポーズを決めると「いいよ!いいよ!最高だよ!」とカメラマンは褒めまくり、場所やポーズを微妙に変えながら100枚以上の写真を撮りました。

辺りがうっすらと暗くなり、最後のシャッターを切ったところで「はい、OK!お疲れ!」と、カメラマンから声がかかり、その日の撮影は終了。

その後、スタッフみんなで夕食を食べていると、カメラマンがAさんの元に近寄り、「Aちゃん、今日、本当に最高だった! 絶対イイ写真撮れてると思うし、明日の撮影もよろしく頼むよ」

満面の笑みを浮かべて、そう言いました。この言葉を聞いたAさんは安心し、翌日の撮影に備えて早めに眠ったそうです。

そして、次の日。ホテルの部屋で寝ていたAさんの元にマネージャーが駆けつけました。

「Aちゃん、すぐに起きて着替えて!」

撮影の時間まではまだ余裕があるのに何で? と思ったAさんにマネージャーは、
「カメラマンが物凄い血相を変えて怒ってるのよ。とにかく行かないと……」

マネージャーはそう言ってAさんを部屋から連れ出し、カメラマンの元に急ぎました。

「失礼します……」
恐る恐るカメラマンの部屋に入ったAさんとマネージャー。すると、そこには、昨日とはまるで別人の怖い形相をしたカメラマンが立っていました。

そして、Aさんたちの目の前にバサっと、昨日撮った写真をばら撒いて言いました。
「見て、この写真。これ見て、どう思う?」
Aさんは「どう思う? って……」と、正直、困りました。

すると、カメラマンは

「全くヤル気が感じられないんだけど……。ヤル気がないなら、今すぐ帰れ!」

と怒鳴りつけました。

Aさんは全くワケがわからず「この人、なに急に?昨日、あんなに褒めてくれてたのに。どうしちゃったの?」と思いながらも、目からは涙が溢れ出し、たまらずに部屋から飛び出しました。

それから1時間後。
ここで帰ったら負けだ!と腹をくくったAさんは撮影に臨む決意をして水着に着替え、メイクを施してもらいました。

すると、事の成り行きを把握していたメイクさんが、言いました。

「あのカメラマン、ちょっとオカシイんだよね。穏やかな顔してるかと思うと、急にキレて発狂したり、壁に向かってブツブツ1人で喋ってる時もあってさぁ。何か憑いてるんじゃないかって、みんな言ってる」

それを聞いて一瞬怖くなったAさんですが、カメラマンがオカシイのは周知のことだったんだと思うと、少しホッとして現場に向かいました。

「お待たせして、すいません」

そう言ってビーチに現れた彼女を、今度は飛びきりの笑顔で迎え入れたカメラマンは、「いやぁ待ってたよ、Aちゃん! 早く早く、こっち来て!」

と手招きし、信じられない言葉を発しました。

「さあ、みんなで輪になって踊ろう!」

輪になって踊ろう……って。

歌の中でしか聞いたことのない言葉で急に誘われたAさんは一瞬、躊躇しましたが、その時のカメラマンの狂気に満ちた目がとても怖くて、断れる空気ではなく、周りの皆も同じように感じていたのか、全員で輪になって踊ったそうです。

「この人、本当に狂ってる……」

こんなに起伏の激しい人に今まで会ったことのなかったAさんは、この人には本当に何か憑いているのかもしれないと思いましたが、後日、その真相を知ることになりました。

サイパンでの仕事が終わり、数ヶ月経ったある日のこと。何気なくニュースを見ていたAさんは驚きました。

渋谷の街で覚醒剤所持の現行犯で逮捕されたというその男は、紛れもなく、あの時のカメラマンだったのです。

Aさんは、この時ようやく「そういうことか……」と納得したそうですが、あのカメラマンの狂気に満ちた目が、今でも忘れられないと言います。
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