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マネージャー歴トータル18年。
その間いろんな事務所を転々としてきました。

売れっ子タレントを多数抱える大手の事務所から、名も無いエキストラばかりが所属する事務所、声優やナレーターの管理をする事務所、CMなどでお馴染みの可愛い動物たちを扱う事務所……と本当にバラエティに富んだマネージャーライフを送ってきましたが、私がこの業界で「そんなこと、本当にあるんだ」と震え上がった事件があります。

あれは、私がまだ30歳ぐらいの時だったと思います。

その当時、私は子役タレントをマネージメントする事務所で働いていましたが、マネージャーとは名ばかりで、街で子供をスカウトするのがメインの仕事でした。スカウトと言うと聞こえが良いのですが、はっきり言って勧誘です。

子連れのお母さんに「お子さん、可愛いですね。タレント事務所に入りませんか?」と声をかけ、事務所に入れるわけですが、入会金などは無料の代わりに宣伝写真を撮るための撮影費をぼったくるのです。

さらに、その子供たちの写真を集めたパンフレットを作成するからと言ってお金を取り、合計5万円ぐらいは親御さんから頂きます。

正直、子供が可愛いかどうかなんて関係なく、お金さえもらえたらそれでいいという詐欺まがいな事務所です。

にも拘わらず、自分の子供を褒められたら弱いのが親の心境で「たったの5万円ぐらいなら」と、あっさり承諾する親が多かったのが驚きでした。

そんなインチキ子役プロダクションが本当に存在すること自体、怖い話ですが、そこで、新人マネージャーのハセちゃん(仮名)に起こった怖い出来事をお話ししたいと思います。

女子大を出てすぐ、そのインチキ子役プロダクションに入社して来たハセちゃんは、とても初々しく、天然キャラでちょっと抜けていました。

決して美人ではないけどホンワカとした癒し系で、女性の私から見ても嫌味なく「可愛い」と思える女の子でした。

当時、事務所内には女性のスタッフが少なく、女性マネージャーは私とハセちゃんの他、私より3つ年上の大野さん(仮名)だけで、あとは男性マネージャーが5人ぐらい。

経理や総務にはもちろん女性はいましたが、普段はほとんど接することがありません。

そんな感じだったので、ハセちゃんは私や大野さんを慕って「どうすれば、親子連れにうまく声をかけることができるのか?」など、仕事のことをアレコレ聞いてきたり、プライベートな悩みを打ち明けてきたりと、女3人の距離が徐々に縮まっていきました。

そんなある日のこと。私とハセちゃん、大野さんとで飲みに行った時、ハセちゃんの口から衝撃告白が飛び出しました。

「あの……私、実は……まだ、したことないんです」

「えっ?!」

ハセちゃんからの、唐突かつ、まさかのヴァージン宣言。私と大野さんはのけ反りました。

22歳を超えて処女……平成のこの時代に処女……マジか!! と、かなりの衝撃を受けましたが、同時に、この純真さを守り抜いてほしいとも思い、とにかくハセちゃんに変な男を寄せ付けないようにしようと、大野さんとタッグを組みました。

それから1ヶ月ほどして、社内のマネージャーみんなで飲みに行こうという話になり、男性女性入り混じって酒を交わしました。

会が始まってしばらくすると、皆、酒が回って仕事の愚痴を言いだしたり、だんだんと羽目を外すようになったのですが、1人の男性が酔ってハセちゃんに触ろうとしたところ、

「てめえ、触んじゃねえよ!」

姉御肌の大野さんが、結構本気モードでその男性の頭をはたきました。

「いって~!」

頭を抱えている男性を見て、私は「さすが大野さん」と感心していました。その後も、誰かがハセちゃんにちょっかいを出そうとしたら、大野さんがすごい剣幕で牙をむいて彼女を守りました。

そうこうしている間に飲み会もお開きとなり、帰途へとついたのですが、終電はすでに無く、タクシーで帰ることに。

私は、方向が同じ男性2人と同乗し、ハセちゃんは、彼女と家が近所だという男性マネージャーと同乗しようとした瞬間、大野さんがそこに割って入って言いました。

「ハセちゃんは私が送っていく。お前は1人でタクシー乗って帰れ!」

と、強引に男性を降ろし、車を出しました。その時、私は「そこまでしなくても」と思いましたが、熱血漢の大野さんは使命を果たすために熱くなっているんだろうと、それほど気にも留めませんでした。

翌日。
いつも通り出社すると、ハセちゃんの姿が見当たりません。

いつもなら私たちより早く来て掃除や書類整理をしているはずなのに……。結局、その日、彼女が会社に現れることはなく、連絡も取れない状態でした。

一体、何があったんだろうと心配していると、夜になってハセちゃんからメールが入ったのですが、そこには一言「私、会社辞めます」とだけ書かれてありました。

なんで急に? どうしたの? わけがわからなかった私はすぐさま彼女に電話をしたのですが、一向に通じず、メールをしても返信はありません。

そして次の日、会社に行くと、ハセちゃんから封書が届いており、そこには退職願が入っていました。

「え~……ちょっと、どういうこと? ねえねえ大野さん、ハセちゃん、一体どうしちゃったんでしょうねぇ……」

ハセちゃんの退職願を見てビックリした私が、大野さんに言うと、

「う~ん……どうしたんだろうねぇ……」

大野さんも首を傾げました。

ハセちゃんがなぜ急に会社を辞めたのか誰にもわからないまま、1週間ほどが過ぎた頃───私の携帯が鳴りました。ようやく謎の解ける時が来たのです。

「もしもし……あの……ハセです」

彼女は、折り返しの電話が遅くなったこと、メールの返信ができなかったことについて詫びた後、退職の理由について話し出しました。

「この間、皆さんと飲み会に行った帰り道で、実は……その……襲われたんです。私……あんな経験したことなくて……それで、もう怖くて……」

私は一瞬、意味が分からなかったのですが、あの時のシチュエーションを思い出して、彼女を襲える人物と言えば1人しかいないことに気づきました。

「え……それって、もしかして……」

嫌な予感が頭をグルグル駆け巡りましたが、どうか違いますようにと祈りながら彼女の答えを待ちました。

「はい……。大野さんです……。だから……だから、もう会社には行けないんです。すいません……」

そう言って、ハセちゃんは電話を切りました。

この一件で、私は、ずっと一緒に働いていた女性が実は“そっち系の人”だったことや、自分はその人の琴線に触れなかったことを知り、なんとも言えない微妙な気持ちになりました。
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